ヒトラーを生み出したのは何だったのか

先日紹介したヒトラー本ですが、なかなか読みごたえがありました。書いてある内容のどこまで真実かは私にはよく判断できませんでしたが、ヒトラーの独裁は決して彼の才能や独断だけで成立したのではなく、当時の国民の風潮、政党所属の武力組織の存在、他の政治家がナチ党とヒトラーを甘く見ていたことなど様々な要因による影響が大きく、むしろヒトラーはそういった作用のもとで幸運にも権力を与えられることになったと考えるのが自然だということが分かりました。ナチ党がプロレタリアートからブルジョアまでを巻き込む初の「国民政党」だったことが、ナチ党の発展を促してきたということも。

当初はドイツの政治家たちは国民政党で大衆から人気があるが、決して過半数には達しないナチをかいならして無害化しようとしていたのでした。しかし、彼の強い権力欲もあって、ことごとくそれに失敗したうえ、結局はナチに支配される関係になってしまった。ミイラ取りがミイラになるような感じでしょうか。

当時のドイツとの比較でいえば、政党の乱立や大統領の非常時における強い権限、政党所属の武力組織に関しては今の日本においては全く無縁ですが、国民の風潮などに関して言えば当時のドイツと似ているところが多々あります。

不況と多数の失業者、中産階級の没落不安、法とモラルへの不安、収入や社会的地位が違うというだけで執拗な言論攻撃が行われる社会情勢、救世主のようなカリスマを求める風潮など、「これって今の日本?」と思える記載が多々ありましたね。その一文だけ取り出して読むと、ものすごい既視感があります。ヒトラーが首相になったときも、マスコミも国民も大喜びして街頭に繰り出したのだとか。「ヒトラーが執務についた」という些細な当たり前のことですら、大きなニュースとして取り上げ一日騒ぎ続ける。これって、つい先日の政権交代とやらでもありましたよね。

国民がこれから正しい道に進むか、過去の過ちを繰り返すかは、新政権に対して「新しいからよい」「今までと違うからよい」という価値基準で判断するのではなく、「政策に具体的に何のメリット、デメリットがあるか」という視点で判断できるかにかかっていると思います。
「新しいから大目に見るべきだ」なんてことをためらいもせずに主張している時点で、トンデモだと私は思います。