医療崩壊論を考える

前々から少し疑問であったんですが、いろいろな意見を中立な立場から眺めてみるという視点で考えると医療崩壊も実は「一種のお祭り」である可能性は否定できないなぁという気がします。

確かに地方を中心に医療は急速に崩壊していることは否めないのですが、日本全体の医療提供体制という視点で考えると、そこまで深刻かということを考えたときに

  • 産科など一部の科では深刻だが
  • 決して全ての科が急速崩壊をしているわけではない

ことも事実です。医療崩壊の聖地とか揶揄されている(それはおそらくネット医師の発言力があの地域の医師を中心として強いからなのでしょうが)のぢぎく県でも、とりあえず南部の都市地域で普通の病気にかかったときは医師に診察してもらえます。小児科とか産科とかは微妙なラインではあるみたいですけれどもね。中北部でも総合病院の一部の科がつぶれているというのはあるんですが、地域の私立や個人運営の有床診療所や小規模病院が頑張っていたりするので、今のところは踏みとどまっている感じはあります。もっとも、それらの病院は24時間体制ではなかったりするので、夜間では若干大変ですが。

従って「医療崩壊」という言葉の響きは実体よりも若干誇張されている感じがするのも事実です。まるで、「普通の病気になって昼間に病院/診療所に行っても医者がいません」というような語感すら与えます。危機感を誘発するにはいい作戦だと思いますが、ちょっと医師にしても問題意識の高い市民にしても、その語感に酔いしれてしまって外部へ情報を発信したり、交渉したりするときにヒステリックになりすぎている感じはあります。ある種の「医療崩壊祭り」のような状態になっているのではないかと、「医療崩壊」をかなり問題視している私としても、やっぱり思うわけです。

医療ブログを多くの国民が見たときに、決して「そりゃ医者は大変かも知れねぇけど、なんだかんだいいつつお前らワシより何倍も高給取ってるだろう」と思う人が少なくないのも、医療ブログが医療崩壊でお祭り騒ぎをしているように見えるからかもしれません。もちろん、ネット医師の中にも冷静な議論をされている方は多いとは思いますが、ちょっと「医療崩壊」にヒステリックになっている人々も見受けます。一般人の「素人ですが、医師の皆さんは〜おっしゃいますが、実際のところは〜ではないでしょうか」という丁寧な質問にもネット医師が「こんなバカがまだいるよ」「だったら勝手にしろ」という集中攻撃を浴びせている様子を見ると、なんだか2chの祭り、晒し上げとダブって見えて仕方がありません。普段の診療のストレスもあるのかもしれないですけれどもね。ただ、逆にそれは患者の医療不信、ドクターの患者不信を助長するような気がして仕方ありません。

小松先生には悪いですが、「医療崩壊」というあまりに範囲の広い言葉から一度脱してみて、一体いま何が崩壊しているのか、何が問題なのかということをよく考えてみる必要があると思います。

さて、全く話は変わりますが、「医師不足」についてとあるデータを作ってみました。厚生労働省の平成10年、16年12月末の統計資料(医師・歯科医師・薬剤師調査より。2年周期の調査で平成18年の統計は今年の12月上旬に結果が出る)をもとに医師の偏在について各都道府県、都市で比較を行いました。新医師臨床研修制度は平成16年4月より実施なので、一応、制度導入前と導入後のデータを比較していることにはなります。もっとも、「医療崩壊」が急速に進んだのは平成18年以降ですから、今度の12月に出る資料で全てが分かることになりそうですが。

人口10万人あたりの医師数
赤系の色は相対的に医師が不足したり、都市集中が進んでいる都市、青系の色は相対的に医師が過剰であったり、都市集中が緩和されている都市を示しています。医師数は医師免許取得者数。従事医師数は医療機関で働く医師の数です。医療機関従事率は従事医師数/医師数で、どのくらいが実働人員として働いているかを示しています(もっとも、この統計ではアルバイト医も入ってしまいそうですが)。都市部集中率は、特定の大都市及び地方中核都市の従事医師数が、所属する県の従事医師数に比べて何倍かを示しています。この値が大きいほど大都市や地方中核都市に医師が偏在していることを示します。
10年度→16年度の部分ですが、従事医師数の変化と都市集中率について年度ごとの比較を行いました。


私見私見じゃないという話も・・・)ですが、平成16年12月の段階では

  • 医師は必ずしも大都市に偏在しているとは限らない
  • しかし、地方においては地方中核都市(新潟とかすごい)に集まっている傾向はある(郡部は足りない?)
  • 埼玉は人口の割に医師が少なすぎ(防衛医大を除くと埼玉医大しかないからか?)

ということが言えるでしょう。また、医師が医療従事者以外の道を選ぶ率が若干ですが増加しています。製薬会社の部長とかの方がはるかに給料がいいこともあるそうで、その辺が影響しているのかもしれません。

僕自身は平成18年のデータを楽しみにしています。これですべての謎が解けるかもしれないからです。