医師は増やさない、増やせない

私は結構昔から「医療費増額なくして、医学部定員増加はなし」の立場をとってきたのですが、まずはこの資料を
緊急医師確保対策について(政府・与党)

1.医師不足地域に対する国レベルの緊急臨時的医師派遣システムの構築
医師不足地域に対し、都道府県からの求めに応じ、国レベルで緊急臨時的な医師の派遣を行う体制を整備する。上記の実施に伴い、規制緩和等の所要の措置を講じる。
2.病院勤務医の過重労働を解消するための勤務環境の整備等
病院勤務医の過重な労働を解消するため、交代勤務制など医師の働きやすい勤務環境の整備、医師、看護師等の業務分担の見直し、助産師や医療補助者等の活用を図る。また、特に勤務が過重で、深刻な医師不足の現状にある地域医療を支える病院への支援を充実する。さらに、一次救急を含めて地域医療を担う総合医の在り方について検討する。
3.女性医師等の働きやすい職場環境の整備
出産や育児による医師等の離職を防止し、復職を促すため、院内保育所の整備など女性の働きやすい職場環境の整備を図るとともに、女性医師の復職のための研修等を実施する病院等への支援や女性医師バンクの体制を充実する。
4.研修医の都市への集中の是正のための臨床研修病院の定員の見直し等
大学病院を含む医師臨床研修病院の臨床研修制度の在り方や定員の見直し等を行うことにより、都市部の病院への研修医の集中の是正に取り組む。また、臨床研修後の専門医に向けた研修の在り方についても、地域医療への従事や医師派遣の仕組みと関連付けて検討する。
5.医療リスクに対する支援体制の整備
産科補償制度の早期実現や、診療行為に係る死因究明制度(医療事故調査会)の構築など、医療リスクに対する支援体制を整備する。
6.医師不足地域や診療科で勤務する医師の養成の推進
地域や特定の診療科で医師が不足している現状に対応し、奨学金を活用して都道府県が定める地域や診療科に確実に医師が配置できるための医師養成数の緊急臨時的な増加を行う。さらに、地域の医療に従事する医師数の増加を図るため、医学部における地域枠の拡充を図るとともに、医師養成総数が少ない県においては、医師の養成数を増加させる。また、臨床医を養成する医育機関の在り方についても検討する。

今年に入って厚労省は次々と医師不足対策を打ち出していますが、新聞に出てくるような厚労政策の経緯をたどってみると、時間的に前後しているものはあるにせよ、基本的にはこの政府与党の指針に沿ったものになっています。たとえば、7月ぐらいだったか、国病構からの医師派遣を検討していると伝えられましたが、これは1番。小児科などで医療補助者をつけられるように診療報酬を改定する方針が伝えられましたが、これは2番。女性医師の活用は女性医師バンクなどで3番。研修医の定員数を削減するのは4番。無過失補償やいわゆる医療事故調は5番。医学部定員を一部5人〜10人程度増加させるのは6番です。

で、この政府与党の指針には太字にしたように少し気になるところがあります。医師の増加施策については、基本的に「緊急臨時的」「応急的」な処置であることが分かります。したがって、医師は増やさないという意図が明確だと考えられます。なぜ、増やさないのでしょうか。答えは簡単。厚労省ではなく財務省経済財政諮問会議レベルで医療費の増額を容認してくれなければ、医療費の増額は不可能だからです。結局、医療費をほぼ固定化したままで医師を増やせば、限られたパイを増えた医師で取り合うのですから歯科医師のような年収300万のワーキングプアーを生み出しかねません。それは医師や医学生も望むところではないでしょう。

「医師を増やすためには、医療費の増額が必要である」の対偶を取れば「医療費の増額ができないのなら、医師は増やさない、増やせない」のです。ただでさえ、日本の医師数は年間3000人近く純増しています。医師を増やすのではなく、働いていない医師をより働かせ、働きすぎの医師の負担を緩和するという、偏在是正に重点が置かれるのも自然ではないでしょうか。一部の医師(特に勤務医)に過剰に負担がかかっている現行を改め、医師全体にoverworkを均等に負担してもらうということだと思います。

かつて交替勤務制についてYosyan先生が24時間365日コンビニ小児救急の試算で、計算をされていました。「小児科のコンビニ救急を実施するためには14,320人が必要で、勤務医は8,393人なので5000人以上足りないじゃないか!」ということをおっしゃっていたのですが、「なら開業医も含めて全小児科医14,677人を動員したらいいんだよ!ギリギリ足りるじゃん!」というのが今後の方針ではないかと僕は予測しています。もっとも、全国一律にコンビニ救急を実施するわけではないと思うので、実際にはそこまでギリギリではないと思いますが、将来的に暇な(と言われている)開業医を診療報酬制度によって動員させることは避けられないのではと思うわけです。開業医が24時間365日体制で出動するのは厳しいということは、おそらく厚労省もよく分かっていると思います。最終的には「開業医も最低2週間に1回ぐらいは当直しろよ」ということで決着がつきそうな気もするんですけれどね。