本当に医療を充実させる必要があるのだろうか
暴論との批判を受けかねないのは重々承知ですが、せっかくですからタブーに踏み込んでみます。
日本の人口動態は少子高齢化の道を一直線に進んでいます。人口ピラミッドを見ても真ん中が分厚く、若い層は非常に薄くなっています。
2005年
2010年
2020年
2035年
今のいわゆる「医師不足」の問題は、色々な要素はありますが、厚労省・文科省の医学部入学定員削減が時期的に早かったことやインフォームドコンセントなど医療の質を向上させるための業務が急激に増大していることに起因しているようです。しかし、だからと言って単純に医師を増やしてよいかとなるとそれは別問題です。この人口ピラミッドからも見て取れるように、今後5年10年が経つにつれ、高齢者の数はますます増え、医療の実質的に担い手となる実働数は減っていきます。この中で今の医療の質を保とうとすれば、Σ(医療の質×需要)=医療従事者の総仕事量となりますから、医療従事者の総仕事量は人口動態に比例して増加することになります。もちろん、この需要に応じて医師を増やしたらいいという意見が年配の(患者となる)人間に多いことは理解できますが、それが日本の将来にとって果たしてベストかということは大きな疑問です。さらに最近のマスコミ論調は当然「医療の質を向上せよ」です。質も向上させ、需要も増えれば、医療従事者の総仕事量は指数関数的に増えていきます。
総仕事量=医療従事者一人の平均仕事量×医療従事者数となりますので、総仕事量の爆発的な増加に対して対応できるのは、医療従事者一人当たりの仕事量を上げるか医療従事者数の増大することが必要です。しかし、一人当たりの仕事量を上げるのはもはや限界に近い。勤務医の多くは労働基準法違反の状態で働いています(ある程度はそれも仕方がないとは思いますが)。そうすると必然的に「医療従事者数を増やせ」ということになってきます。今の医療ブログでの「医師増やせ」論はこの論理をベースにしていると考えています。しかし、総仕事量は指数関数的に増えていますし、医師の養成は時間がかかりますから、医師数の増加でこの問題が解決できるとは思えません。
しかし、ここで発想を変えてみるとどうでしょうか。今の考え方は需要に供給をあわせるという発想から生まれたものでした。逆に供給に対して需要をあわせるという考え方があってもいいはずです。
すなわち、平均仕事量も今のまま、医療従事者数も多少増やすけれども基本今のままとし、総仕事量を今とほぼ同じ状態に保ちます。
医療従事者の平均仕事量×医療従事者数=Σ(医療の質×需要)
そうすると、高齢化によって需要は減りませんから、必然的に医療の質を下げればいいということになります。医師不足問題に対する解決策は一つのアプローチとして「医師数の増加」ということが考えられますが、もう一つのアプローチとしては「医療の質を落とす」ということが考えられるのです。
医師数を増やすとすれば、ただでさえ少なくなっている今の若い人材を多く消費しなければなりません。医療は基本的に内需産業であり、日本の世界的な飛躍にはあまり役に立ちません。しかも、指数関数的に増加する総仕事量の問題を解決するにはあまりに無力だし、一人前の医師を養成するまでのタイムラグが大きすぎます。しかし、医療の質を落とすのは簡単だし、今すぐにでもできます。もちろん、質を落とすことで救命率が下がり、平均寿命が短くなるかもしれません。しかし、それは人口構造から考えて十分に予見されたことであり、少子高齢化対策にちゃんと気付いて取り組んでこなかった日本人全体が負うべき責任です。
あえてここで、批判を恐れずに私のホンネを包み隠さず言わせてもらいます。
私は医師数を単純に増やせというのは、上の世代が下の世代にわがままを言っているようにしか感じることが出来ません。40代以上の人間の無策のツケを我々の世代に押し付けられているような気分さえします。我々の世代の優秀な人材を医療という内向きの産業に大量投入して将来の日本をどうする気なのでしょうか。こんな政策が正論としてまかり通るなら、多くの若者が八方塞がりの日本から脱出したいと考えるのも必然でしょう。
そんなに長生きがしたいですか?長生きをして財産を海外に散財してどこが楽しいのかと。
最近のリッチに年に何回も海外旅行をして高級物品を買いあさっているような高齢者を見ていると本当に腹が立ちます。自分さえよければいいのか。自分が健康で安心して余生を楽しめばいいのか、自分たちの子孫がどうなってもいいのか。
私は将来を担う子供たちに関わる小児医療や産科医療、一生懸命働く人の健康のために医師数を増やすことには反対しません。しかし、自分だけが健康で優雅な生活を送ることができればいいとおもっているような高齢者のために医師数を増やすことには反対します。私は医療も充実させるべき医療と、質を低下させても構わない医療が存在すると思います。もちろん、人もカネも有り余るほどあるのであれば、すべてにおいて質を向上させるべきですが、現実を見ればそうではない。限界があるのなら、メリハリをつけて医療資源の分配を行うべきです。そのプロセスの中で一部に質が低下する医療が出てくるかもしれませんがそれはやむを得ないことです。医療崩壊の本当の問題点は、切り捨てるべき医療は充実される一方で、本当に必要な充実させるべき医療が崩壊しつつあることだと私は考えています。そこだけはきちっと対策を立てていかなければなりません。