私の迷い

私が常に迷っていることがある。自分より若い人間に夢を与えるべきか、現実を見せるべきかということである。
若い人間には可能性がある。そして多様性もある。いろいろなことに夢を与えることは若者にとっては自らの可能性を広げ、自分に適したキャリアプランを見つけるきっかけともなることに疑いの余地はない。しかし、倫理・道徳観の喪失が著しいこの世の中で、現実を見せずして夢のみを与えることは若者に強い後悔と失望を与えるかもしれない。少なくとも私は大学に入ってから大きな失望を経験した。机の下で何時間も泣き続けるほどの失望を経験した。

人は同じ間違いを犯したくないと思う。事故があれば当事者は二度と同じ間違いを犯して欲しくないと思う。同様に夢ばかりを妄想し、現実を知って絶望を味わえば、自分以外の人には同じ間違いを犯して欲しくないと思う。

私が一部の中高生の見ている中で、医療崩壊問題を積極的に取り上げているのは、もちろん、自らが不安になっているというのが大きいが、先行きが不透明な医療業界の現実を知ってもらい、よく考えて自分の道を選んで欲しいから、という側面がある。一方で、彼らにはよく夢の医療の話、医学の面白さについても話すようにはしているつもりだ。

けれども、積極的に医療崩壊を取り上げることが若い人々の可能性を奪ってはいないかということは常に気がかりである。本当は医師を目指していたのに、医療崩壊という負の面だけが強く彼らの印象に残り、彼らの道を狭めてしまってはいないか、他の業種にも裏の現実はいくらでもあるのに、医療分野だけその現実を知らしめてしまったのではないか。

そこまで迷うなら、書かなければいいという意見もあるだろう。けれども情報を教えないことは、彼らに判断材料を提供しないという点で言えば、それはそれで彼らの可能性を抑えてしまっていると私は思うのだ。

私は常に迷う。夢のみを与えるべきか、それとも現実も知らせるべきなのか、それとも何も言わざるべきなのか。人間はいつか挫折を味わう。そのときに大きく成長する。けれども違う人間が同じところで挫折を味わうことは人類全体の知識の累積という点では進歩性に乏しい。人類のよりよい進歩のために、そして若い人々の人生のために一体どの方法を選べばいいのだろうか。

注:私も若いというツッコミはナシで。