経済財政諮問会議の謎解き

新小児科医のつぶやきで数日前にあった記事ですが、コメント欄に「確かに諮問会議は強いが、諮問会議にはある程度、官庁から方針が発信されているのでは?」という指摘がありました。せっかくなのでここで少しコメントしておきます。

財務省のような一流省庁は分かりませんが、厚労省のような二流官庁は経済財政諮問会議には従わざるを得ません。混合診療などに関しては(監督官庁の立場から)省をあげて抵抗している雰囲気はありますが、そのほかについてはホイホイと認めています。

基本的に官僚さんたちはパワーバランスに敏感です。従わないと自らが非常に不利になるようなことには、よっぽどのことがない限りは抵抗しません(混合診療は皆保険制度の根幹に関わるため例外)。たとえ不利を覚悟で諮問会議に反対したところで、二流官庁の要求は内閣府からすぐに却下される構造になっていますので、抵抗するだけ無駄なのです。ちなみにもっと格が上の省の某官僚に「経済財政諮問会議が強すぎて、ほとんど抵抗できないようだ」ということを話すと、「そりゃそうだよ」と返ってきたことからも考えて、このことは霞ヶ関内では常識みたいですね。

厚労省は業務量が膨大な省庁として非常に有名です。ただでさえ忙しいのに、却下されるのが分かりきった仕事にエネルギーを費やすのは大きな無駄です。従って、自らの仕事量を増やさないためにも、できるだけ諮問会議ですんなり話が通ってくれるよう、紛糾するような主張は会議に提出しないのだと私は考えています。むしろ、経済界の人間が納得しそうなものをあらかじめ予測して、資料や案を提供しているのかもしれません。
あくまで推測ですけど。

ちなみに「これ以上、仕事量を増やさないでくれ」という悲鳴みたいなものは事務次官の就任挨拶からもよく読み取れます。あまり厚労省に対してギャアギャア文句を言っていると逆に「仕事を増やす鬱陶しいヤツ」と思われて、他の部署にそれに関する案件を押し付けあって、最終的には冷遇される可能性が高いだろうなぁ、ということを感じます。

公務員バッシングで心が折れているというのもあると思いますが、「仕事をあまり増やしたくない」という意識は常にあるみたいなので、医師の処分でも「医者をいじめてやろう」という意識よりは、「業界が自発的にミスをした医師を処分しないので、医療ミスに対する厳しい世論もうるさいし、しょうがないからこちらで処分拡充するしかないか」という感じなのではないかと思います。地方の医師不足の問題でも最近は「基本的に都道府県でやってくれ」といって地域医療支援中央会議を作りましたよね。医師不足対策は、もとから本気じゃないというのは感じますね。国会とかマスコミがうるさく言っているので、しょうがないからやるかみたいな。技官の方の話を聞く限り、日本の医療をよくしたいという思いはとても強く感じるのですけどね。現実にたちはだかる壁は多くの人が思っている以上に高いと。
もっとも、厚労省だけではなく、うちの大学も学部長の話を聞く限り、医師不足対策は本気ではないだろうなぁというのは感じますが。どっちかというとこういう対策って後ろ向きの対策なので、やっている側としてもあまり面白くないでしょうしね。

最近、親父と「医療はどうやっても縮小する方向にあるんやろね〜」というような話をしています。まぁ、国民の大部分が「医療費が高い。大きな負担だ」と言っているんですから、しょうがないですわね。本当は日本の医療費はそこまで高くはなくて効率は非常にいいのですが、庶民の生活感覚からすれば、保険料に耐え切れないということなんでしょう。そりゃ年収300万程度の世帯に年間4、50万とか言われても無理ですよね。かといってグローバル化で、企業や富裕層への課税も難しくなっていると(課税したら海外へ逃げられる)。日本は民主主義の国ですから、国民の75%が医療費が「高い」と言うのなら抑制せざるを得ないでしょう。仕方がないですね。医療は一部を除いては斜陽産業ですから。
できるだけ、その一部を見るようにしている方が幸せなのかもしれません。