研修制度は戻せない

同級生と食堂で話していて、たまに将来の研修先の話が出るわけですが、すでに3年生の段階から、近親者に医療関係者がいる(=医療事情をある程度知っている)学生のほぼ8〜9割が「大学病院では研修しない」と宣言しています。僕も初期研修は市中病院でするつもりです。将来どこの科というのは決めていない人が多いですが、研修制度や将来の働き先としては「都市部の大病院」というのが圧倒的に人気が高いですね。理由を聞いてみると、「雑用が多い」「大して勉強できない」「給料や勤務体系が悪い」「なんだかんだ言って拘束される」「封建的でいや」というような理由が多かったです。

最近では博士号の人気も低下していて、「博士号を取りたい」というと、「え〜」って返って来る時代です。僕は研究が好きなので、少なくとも研究者として一人前を目指すという意味でできれば博士号は取りたいですが、多くの人は否定的ですし、「博士号を取る」なんて言うとよっぽどの物好きのように見られます。もっとも、うちの学年では僕はそういう人間と理解されているのでなんら矛盾はないのですが。

さて、舛添厚労相が地方の村長と対話集会を開いたそうです。村長や住民は「医師不足は制度体系、人為的なことで起きている。臨床研修制度をうまく直せば、そんなに時間がかからずに解決できる」、「臨床研修制度が変わってから医局の医師派遣システムが崩れた。前と同じ制度に戻せば、医師の派遣機能は調整できると思う」と発言したそうです。

しかし、医学生の立場から言えば「それはありえない」と明言しておきます。一度自由な選択を与えれば、それを奪うとなると当然強い反発が出ることになり、制度を戻すことはきわめて難しい。もし、そういう事態になれば多くの医学生がいかにして地方勤務や大学病院勤務から逃れるか、ということに頭を使うことになるでしょう。あれだけ人気がないのですから、制度を元に戻しても人は戻っては来ません。

さらに新臨床研修制度を導入してから医員と教授の関係が大きく変わったといいます。教授が若手に「〜に行け」というと翌日には「じゃあ医局辞めます」と返って来る時代です。たとえ医局に人が戻ってきたからといって、医局の派遣システムが機能するとは限らないのです。制度を元に戻しても町村部に人が行いくとは限りません。

さらに制度を管轄する行政も戻すことには否定的です。そもそも新医師臨床研修制度は旧厚生省、厚労省が長年にわたって夢見てきた制度とされています。すなわち、厚労省は閉鎖的で封建的かつ専門バカを養成する医局をいかにして潰そうかということを考え続け、また、それを変えられるチャンスをずっと待ち続けてきたわけです。そして、ようやく制度を施行して、研修医からの評価も上々。目論見どおり医局制度も崩壊しました。厚労省にとってはこの制度は大成功に終わっているわけで、戻す理由なんてないわけです。実際、一部の医師からもこの制度が与えた影響というのは、「薪を限界まで背中に乗せたロバの背に藁一本を付け加えただけ」と評価されています。臨床研修制度を戻したところで、たいした違いもないわけです。

というわけで、以上の理由から臨床研修制度が元に戻ることはないし、元に戻ったとしても以前のように地方に医師が行くわけがないので、戻す意味はありません。

ただ、記事を見ていて面白かったのは舛添大臣が「新しいことをやると必ず問題が起きる。目先の視点だけでなく、長期的に考えなければならない」と言っている点でしょうか。その主張は何度となく聞いたので、彼も官僚に丸め込まれているなという印象を受けました。まぁ、内容自体は正しいといえば正しいんですけど、制度の不備に対する言い訳というか主張が完全一致している点が面白いなぁと思いました。もうちょっと違う理由を加えてもいいと思うんですがね。