地方の抵抗が始まった

民主党が打ち出した道路特定財源の問題は中央vs地方の様相を呈し始めました。全国知事会をはじめとする地方の首長団体が一斉に「道路特定財源存続」を掲げて民主党案に反対しはじめたのです。首長の中には、道路整備費が特定財源から調達できないとなるとその分、公共サービスや社会保障を大幅に削らざるを得ない、と主張する首長も多いようです。やはりこれで地方は基本的に公共事業>社会保障という考えを持っていることがはっきりしました。日本の現行システムで脱公共事業がいかに難しいか・・・民主の苦戦はそれを象徴しているように見えます。同時にここまで反対が強いと、地方経済が(政治も)いかに公共事業に依存しているかということを改めて認識させられます。

さて、私は前々から申し上げている通り、どちらかというと「地方は無駄が多いので切り捨てるべき」論者で、「真の改革」≒「公共事業を減らして地方を切り捨てること」「地方民を大都市や地方中核都市へ誘導すること」と考えています。特に公共事業と切っても切れない農業の改革は避けて通れない道です。

日本経済研究センター研究員報告の「労働生産性、日本は米国の61%」(鈴木玲子)というレポートを見ると、図2に業種別の日米生産性比較のグラフが載っています。国際経済学では為替レート決定理論として有名なものに一物一価の法則をもとにした購買力平価説(purchasing power parity doctrine)があり、長期的な為替レート変動を考える上では有効とされています。このときに考える購買力平価PPPについて欧州の研究機関が今までよりも厳密なPPPを出したので、それを使って産業別に労働生産性の日米比較をしたのがこのグラフです。横軸は日本における産業別就業者比、縦軸は米国を1.0として労働生産性です。

このグラフを見ていえることは

  • 農林水産は極めて対米生産性が低い
  • 自動車産業に代表される輸送機械産業は突出
  • 一般的にサービス業は米国に比べて生産性が低い
  • 医療と教育は生産性が飛びぬけて高い(ただし、市場原理があまり機能していないことは加味する必要がある)
  • 総合すると日本は米国に比べて6割程度の労働生産性しかなく、競争力が低い

とくに今回重要なのが、農林水産の生産性です。就業人口は7%程度と決して多くはないのですが、広大な農場で大規模に穀物を栽培するアメリカに比べると0に近いような労働生産性です。これにより、全産業における労働生産性は相当押し下げられています。経営的な視点で見れば、日本全体の労働生産性を上げるためには、この低い生産性を改善するか、この非効率的なセクター自体を縮小することが必要になります。国は近年大規模農家に対する優遇を行って農業の効率化を推進していますが、ご存知の通り、高品質で低価格な輸入米の登場や国内需要の減少に伴って米価が下落し、大規模農家でも経営が苦しい状態が続いています。

これだけの努力をしても、日本の地形や環境などの影響で生産効率が劇的に上昇しないのであれば、やはり第二の選択肢としてこのセクターの比率を下げるということが必要になります。すなわち脱農です。脱農した農家が製造業などの効率の高い職種へ転業すれば日本全体の労働生産性は多少向上することが期待できます。もちろん、足りない分は輸入することになりますが、農業の生産性は他業種と比べても生産性が低いため(一人当たり純生産額)、比較優位の原則から言えば、輸入農作物が増えることで、経済全体の効率は高まることになります。近年の食料自給率低下や異常気象による世界各地の干ばつ等の絡みで食料安全保障上の問題にはある程度配慮する必要がありますが、今後も食料の輸入は進めていく必要があるし、あれだけ中国製が問題になっても多くの人が中国製食品を買わざるを得ない点を見ても、もはや後戻りできない段階まで来ていると私は考えています。

これらの政策を推進する起爆剤として、農業とは切っても切れない地方における公共事業の削減、すなわち道路特定財源の廃止または転用措置というのは是非行って欲しいと考えています。先日も説明したように、農家はいまや三チャン農業で、農作業の出来ない冬季や父ちゃんは結構な割合で土建業に依存しています(第二種兼業農家)。農家の生計は土建が担っているのです。だから道路を作り続けないと地方の農村部は生きられない。地方議員の道路財源廃止への反発ぶりがそこからもよく見えます。もしも建設業の生産が高ければ、多少は公共事業に寛容になってもいいのかもしれません。ですが、あいにく建設業の労働生産性も高くはありません。やはり、道路も切り捨てなければならないのです。自治体等の存続がかかっているので地方の反発は激しいでしょうが、これは少子化が進行している日本には避けられないことです。地方の人自体は切り捨てられることはないように注意を払いながら、地方を切り捨てるということをしていかねばなりません。

さて、ここからは脱線しますが、生産性の観点で言えば、日本のサービス業の生産性の低さというのは有名です。もちろん、接客などでは労働生産性だけでサービス業を評価することはできないという側面はありますが(丁寧な接客は概して生産性が低くなるため)、やはり他国と比べてもサービス業の生産性の低さ、伸びの悪さというのは日本経済にとっては大きな懸念材料です。なぜならサービス業というのは労働者の中でも6割以上を占めるので、そこの生産性が低いと国全体の生産性にモロに響いてくるからです。

なぜ生産性が低いのか、そもそも低いのか・・・・いろいろ説はあるみたいなのですが、メジャーな考え方としてITや海外へのアウトソーシングをあまり活用できていないということが指摘されます。たとえば、ネットで情報を共有できるのに、何かと会議をする、資料をつくるなど、日本の会社には非生産的なことが多いということがよく言われます。サービス産業は就業人口のかなりの割合を占めるようになっており、農業とは違ってセクターを急激に減らすということは出来ない以上、生産性を向上させていくより道はありません。ITをどうやって使っていくか、飲食・流通といった普通のサービス業から新たに高度な技術を持つサービス業あるいは製造業等へ就業転換ができないか、その辺も含めて大きな改革が必要になっているのかもしれません。