特別会計を自分なりに考える NO.2

特別会計の歳入歳出について

今回は特別会計の歳入歳出について見てみることにします。下の図は特別会計の歳入歳出の仕組みを極力簡略化したものです。

まず,A特別会計について見てみましょう。
A特別会計はその歳入を税金①,負担金②及びB特別会計からの繰入金⑤でまかなっています。従って,A特別会計の歳入額は①+②+③となります。一方で歳出に関してはAに関連する整備費③,交付金④,そしてB特別会計への繰入金⑥が存在しています。これらの合計は③+④+⑤です。なお,歳入−歳出がいわゆる剰余金となるわけですが,剰余金や翌年度への繰越金については今回は考えません。従って,A特別会計の予算規模は①+②+⑤(あるいは③+④+⑥)となります。

次にB特別会計です。
B特別会計はその歳入を負担金⑦,A特会の繰入金⑥,一般会計からの繰入金⑨によりまかなっています。歳出は整備費として⑧,A特会への繰入金⑤,一般会計への繰入金⑩です。従って,これも剰余金が存在しないとするとB特別会計の予算規模は⑥+⑦+⑨(あるいは⑤+⑧+⑩)となります。

さて今,特別会計がAとBしかなく,特別会計全体の予算規模を考えてみます。すると単純にはA特会の予算規模とB特会の予算規模を足した(①+②+⑤)+(⑥+⑦+⑨)となります。しかし,果たしてこれは正しい予算規模を表しているのでしょうか?よく考えるとA及びB特会全体で見た収入は①+②+⑦+⑨であり,支出は③+④+⑧+⑩であり,これを全体の予算規模として考えるべきものです。しかし,単純計算で求めた予算規模は歳入ベースで(①+②+⑦+⑨)+(⑤+⑥)です。この⑤+⑥とは一体何なのでしょうか。よく見ると⑤と⑥はどちらもA特会とB特会の間でやり取りされた繰入金です。従って,AとB全体で見たときにはこれらのお金は内部でやり取りされたお金となるので,予算規模として反映されるべきではありません。すなわち,⑤+⑥は特別会計全体で見たときの予算の重複分として考えることができるのです。

一般会計と特別会計の間にもこれと同様のことがいえます。すなわち,⑤や⑥に加えて⑨や⑩も会計間でやり取りされたお金であるため,国全体の歳入・歳出を考えるときはこれらの額は全て重複分として除外されなければならないのです。

その結果,国の予算規模はどうなるかというと,これは財務省「特別会計のはなし平成18年4月」によると,

このように総額では特別会計+一般会計の歳入が572.5兆円,歳出が540.1兆円となっていますが,重複分を除いた純計では歳入が289.5兆,歳出が258.7兆となっています。
【注意】歳出と歳入の重複は基本的に一致します。あるA→Bの繰入はAの歳出であると同時にBの歳入でもあるからです。事実,歳入では572.5-289.5=283,歳出では540.1-258.7=281.4とほぼ一致しています。

さて,ここである疑問が沸くと思います。よくみたら歳出より歳入の方が30兆円以上多いではありませんか。日本の財政は赤字だ赤字だと言いながら実は黒字だったのか・・・。

答えを言う前に一つ残念なお知らせをしておきます。日本の国家財政に関する会計制度はいわゆる単式簿記と呼ばれるものを採用しています。これはフローとストックが一つの表の中で混在しており,単に赤字黒字といっても中身を見なければ,それがストックの増減によるものなのかフローによるものなのかが区分できません。民間企業では基本的に複式簿記と呼ばれるものを採用しているため,ストックとフローは分離され,連動しているのでチェックが容易なのですが,国家財政に関してはそうはなっていないということを意識する必要があります。

で,この差額30兆円なのですが,財務省の説明によると

歳入が歳出より多いのは、国債整理基金特別会計の翌年度の国債の償還に充てるため発行する借換債(いわゆる前倒し債)の発行収入金25 兆円、交付税及び譲与税配付金特別会計の平成16 年度決算税収及び平成17 年度補正予算税収の増加に係る交付税の繰越金等1.5 兆円、財政融資資金特別会計の運用収入と利払費等との差2.4 兆円、外国為替資金特別会計の運用収入と借入金利子との差2.1 兆円、保険関係の特別会計の保険料(掛金)と給付費(保険金)などの収入時期と支出時期が異なることによる差1.2 兆円、その他0.1 兆円(ただし、純計では、これらから外国為替資金特別会計及び農業経営基盤強化措置特別会計の平成17 年度剰余の歳出外繰入れ1.6 兆円などを除く。)があるためです。

と書いてあります。何か誤魔化された気がしますが,個別の特会の決算や予算を見ると謎は解けるように思います。まず,差額の30兆円は基本的に特会の剰余金の総計です。ただし,剰余金と言っても歳計剰余金であって,純剰余金ではありません。純粋に歳入−歳出=歳計剰余金です。歳計剰余金のうち,一部は将来への備えとして積立金に繰り入れられるほか,翌年度へ繰り越されることもあります。最終的に余ったお金が純剰余金と呼ばれるものです(なお,よく混同されるのですがとは歳出予算額−決算歳出額。「使う」と言った額から比べてどのくらい使わなかったかを指します)。従って,剰余金がこれだけ出ていても単年度でこれだけ黒字を出したのではなく,前年度の剰余金繰越も繰り入れて「これだけお金が余ったよ」と言っているわけで,この剰余金の大半が積立金に積み立てられたり,翌年度に繰り越されるため,実質的な単年度の黒字額は大きくありません。さらに黒字と言っても,これはあくまで単式簿記ですから,新たに国債を発行することによって得た公債収入金もそのまま歳入として計上されます。新たに借金をした上で「使い残した」と言っているわけですから,これを黒字と言うわけにはいきません。国債発行残高が増えていることからも日本の財政はやはり「赤字」なのです。(まぁ,黒字・赤字という言葉を使うと混乱しやすいので本当は使いたくないんですが)

さて,再度財務省の説明を見てみます。財務省によると30兆円のうち最も大きな額を占めるのが国債整理基金特別会計の前倒し債発行収入金25兆円であるとしています。「なんだ,剰余金じゃないじゃないか!」と一見すると勘違いしてしまいますが,国債整理基金特別会計の歳計剰余金(歳入:249.9兆円,歳出224.9兆円)を計算するとこの額にピタリと一致するのです。これはどういうことかというと,実は2008年問題が絡んでいます。2008年問題というのは1998年に故小渕総理が景気回復・公共投資目的で国債を大量発行したことにより,2008年にその償還が一気にやってきてしまうという問題です。小渕の呪いとも言われています。たくさん返さないといけないので,その年は国債を大量発行しますということになると,市場も混乱しますので,その分を平準化するために借換債を前倒し発行し,お金を積み立てておく必要があります。それがこの25兆円であると考えられるのです。もっとも,国債の買い入れ等により2008年問題は解決したという財務省の発表もあってか,この剰余金の額は平成19年度予算で20兆円と減額されています。

となると,この剰余金は国債償還のための剰余金ですから余った金とは言いづらいものがあります。すると本当の剰余金は5兆円程度となり,積み立て分などを除けば剰余金などないのではないかと思われる方も多いと思います。しかし,ここで注意をしておかなければならないことが一つあります。これまで出してきたデータは全て予算であって,決算ではないということです。2005年度のデータですが,予算では全特別会計で37兆円が歳計剰余金として計上されていました。しかし,決算で判明したことは多くの特別会計から剰余金が発生し,最終的に50兆円を越す剰余金が発生したことです。たとえば,港湾整備特別会計。港湾整備勘定,特定港湾施設工事勘定ともに歳入歳出が一致していましたが,決算では両者合わせて241億円の剰余金が出ました。

使用料が予想より増えたとか前年度繰越が予想より多かったとか,いろいろ事情はあるでしょうが,結局のところ,そんなに必要ではないにもかかわらず,多額の予算を計上していたということになります。このようにして毎年発生する剰余金を(今まで歳出超過になったことがないのに)積立金として貯め込んだり,翌年度の剰余金として繰り入れたりした結果,一見すると国民には見えない無駄なカネが特別会計の中に隠れているのです。これがいわゆる一般に霞ヶ関埋蔵金と呼ばれるもので,決算で増えた剰余金だけでも単純計算すれば50兆−37兆の13兆ぐらいはムダ金だったということになります。積立金は全部で200兆円ぐらいあるようなのですが,年金など積み立てが本当に必要なものもあるので,せいぜい拠出できるのは数兆〜10兆ぐらいと考えられます。また,剰余金の中にも,積み立てが必要なものや特許特別会計のように前受け金(特許処理が追いついていないため)としての性格を持つもの,規定によりすでに国債償還に割り当てられているものもあるので,すべてがムダだとは言い切れないものもあり,結局,霞ヶ関埋蔵金の総額はせいぜい10兆〜20兆レベルであるということがいえると思います。なお,使途が決まっているなど法的な問題から埋蔵金に手がつけられない場合があったり,独法が貯めこんでいる分もあるはずなので,その分を勘案すればもう少し埋蔵金の額は増えるかもしれません。

ちなみにこれはありえないかもしれませんが,埋蔵金を運用して国債の利回りより高い利息を受け取っていたとすれば,埋蔵金も必ずしも悪いことではないですね。そういう事例があるか分かりませんが。

ちなみに埋蔵金のうち財政融資資金特別会計の積立金から巻き上げた10兆円は平成20年度予算で国債償還に当てることが決定されたようです。