標榜診療科制度に限界あり?

医療広告は誇大広告や患者への不利益を防止するために医療法及び関連法令、ガイドライン等によって厳しく規制をされています。もっとも規制が適応されるのは主に病院又は診療所の看板であるとか、ホームページのバナー広告のように、不特定多数の公衆に対して意図せずとも閲覧できる類の広告で、病院又は診療所内の掲示やホームページなど、「見たいと思って見ないと読めないもの」については広告規制の対象にはなっていません。

で、規制を受ける広告については掲載できる内容が法令により規定されています。例えば

  • 医師であること
  • 診療科名(病院・診療所の標榜診療科)
  • 診療所の名称、電話番号等
  • 診療日若しくは診察時間
  • 告示で定める基準を満たすものとして厚生労働大臣に届出がなされた団体の認定する資格名(認定された専門医であること)

などが広告できます。

多くの一般人の皆さんは、「○○診療所の医師は△△科医師だ」と考えていますが(医療関係者も普段はそう考えている)、法律上はあくまで診療所又は病院(=医療機関)が〜科を標榜しているに過ぎず、医師の属性に診療科があるわけではありません。あくまで「△△科を標榜している○○診療所に於いて、△△科の診療に従事している○○医師」というのが法律から読み取ることができる△△科医師の定義であるわけです。基本的に医師は何科をやってもいいことになってますので(厳密には麻酔科は厚労大臣の認定が必要)。

一方、△△科専門医(大抵こういう名称)については、通常、専門科団体から個人の医師に対して認定がなされるものであり、あくまで医師の属性として△△科専門医というものがあります。従って、根本的に標榜科と専門医の科は違うものと考えられるわけです。(噛み砕いて言えば、標榜科は医師がDoする対象であって、専門医は医師のBeに該当する)。

その結果、どういうことになったかというと広告に「外科医」「小児科医」という表記をすることは認められません。なぜかというと、外科医を文字どおりに解釈すれば「外科の医師」となるわけで、s先ほど説明した原則とは矛盾が生じるからです。あくまで外科医は「外科に従事する医師」であるだけで、医師に外科とか小児科といった属性があるわけではないのです。さらに、いわゆる専門医制度として。日本外科学会が認定する外科専門医や日本小児科学会が認定する小児科専門医、というものがすでに存在しており、外科医という表現は「外科専門医」との誤解を生む可能性があるためです。そのかわり、「△△科の担当医」であるとか、「○○医師(△△科)」ならば、専門医との混乱を避けられること、あくまで診療に従事する科として標榜科を認知できることから、構わないとしたわけです。もっとも、この規定はあくまで広告に関わるものですから、院内掲示やホームページに「小児科医の〜です」と書いても問題はないでしょうね。

まぁ、厚労省に直接問い合わせたわけではありませんが、大体こういう解釈のもと、外科医や小児科医といった表現を禁止しているものと考えられます。

【注意】その証拠として医師法施行規則に定められている医師届出票には「標榜する診療科名」ではなく「従事する診療科名」と書かれてあること、また、平成19年6月11日に行われた医道審議会診療科名標榜部会第二回議事録において松谷医政局長(当時)が次の発言をしていることによる。

標榜科のほうは、むしろ逆に、これは国が真正面から関与して行ってきたことで、医療機関、病院なり診療所が看板として標榜をするものということで、専門医というのは、それぞれの医者がその個人の属性としてもつもので、基本的には別ものです。

しかし、もはや専門分化がここまで進んでいる以上、医師に標榜科の属性を与えないというのは混乱の原因になるように思います。特に麻酔科に関しては本来医療機関の属性である標榜科の許可が、医師個人に与えられている点にやや矛盾を感じます。総合科も認定制になる見込みのようですし、この機会に医師法にも医療法とは別に何らかの標榜科(特に許可に係る診療科)の規定を入れるべきなのかなぁという気もする今日この頃です。