医安調最終試案NO.1

医療安全対策について
「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案−第三次試案−」を参照。

最終試案の構成は次の通りとなっています。

  1. はじめに
  2. 医療安全調査委員会(仮称)について
    1. 委員会の設置
    2. 医療死亡事故の届出
    3. 遺族から地方委員会への届出
    4. 地方委員会による調査
    5. 院内事故調査と地方委員会との連携
    6. 中央に設置する委員会による再発防止のための提言等
    7. 捜査機関への通知
  3. 医療安全調査委員会以外での対応について
    1. 遺族と医療機関との関係
    2. 行政処分
  4. おわりに
  5. 参考資料

法律案については現時点では出ていないようです。各項目から注目すべき、個人的興味のある部分を抜粋・解釈してみます。

「はじめに」から

医療事故とは、過誤を伴う事故及び過誤を伴わない事故の両方を含む。

基本原則ですが、事故には過誤(≒過ち、過失、ミス)を伴うものと伴わないものがあります。伴わないものとしてはいわゆるある診療行為に伴って一定の確率で発生してしまう合併症などが挙げられます。一般人の皆さんにとって分かりやすいのは、クスリの副作用などでしょうか。一般人の方はなかなか納得しづらいかもしれませんが、医療界では侵襲的手術においての突然の出血やカテにおける血管穿孔なども一般的に合併症と考えられています。現在の医学のレベルでは最大限の注意をもってしても不可避だからです。
(最近ではそれが一般人に理解されていない傾向があります。おそらく自動車事故で何でも「前方不注意」「安全運転義務違反」になる警察の悪習慣から「合併症=ミス」ということを連想しているのだと思います。おそらく、合併症の定義に対するもう少し突っ込んだ説明を医療界全体がする必要があると私は思いますし、恒久的に誤解を解くためには交通事故関連の罰則運用・裁判に対するより合理的且つ抜本的な見直しも必要でしょう。「To err is human」という考え方をもとに、過失に対するより寛大かつ理性的な扱いを国策として進める必要があります)

「委員会の設置」から

委員会の設置場所については、医療行政について責任のある行政機関である厚生労働省とする考えがある一方で、医師や看護師等に対する行政処分を行う権限が厚生労働大臣にあり、医療事故に関する調査権限と医師等に対する処分権限を分離すべきとの意見も踏まえ、今後更に検討する。

これは国会への法案提出を控えて、一部の検討会委員、民主党議員などがうるさく言っていた内閣府下への医安調の設置提案も踏まえて曖昧にしたのだと思われますが、もし本気で独立させるのなら内閣府の下(食品安全委員会etc)におくのではなく、内閣から独立させる、すなわち公取委などと同じ「内閣府の外局たる委員会」(独立行政委員会)として医療安全調査委員会を設立させるべきだろうと思います。これは事故調査に政治を絡ませるべきではないという考えに基づくもので、実際アメリカではNTSB(国家運輸安全委員会)はIndependet U.S. Federal Government Agencyです。ただし、これをやろうと思えばかなり大きなプロジェクトですし、委員会の設置に何年もかかってしまうと考えられます。医療事故を調査する第三者機関の設立は急務ですから、そんな悠長なことはしてられません。
さらに厚労省の組織肥大を防ぐとか、そういう目的で安易に内閣府の下に機関を置こうという発想は感心できません。内閣府は官邸主導政治で今後、各省庁よりもよりそのときの政治の影響を受けやすくなるはずで、調査の中立性からベターなやり方とは思えないからです。最近では内閣府(旧総理府)に置いてきた原子力安全委員会が「国策優先で耐震の議論をちょろまかした」として批判の矢面に立たされています。内閣府に置いたとしても各省庁に置いたとしても結局は一緒だったのです。さらに厄介なことに医安調は現場レベルの医療事故を調査するため、どうしても地方組織が必要になりますが、内閣府は外局や沖縄等を除いては地方支部局を基本的に持っていません。やはり組織運営をスムーズにする観点から考えても医療を管轄する省であり、8つの地方厚生局を持ち、医療者への処分権限も持つ厚労省の下に置くのが現時点ではベストと考えられます。必要が出てきたのならば、医療安全調査委員会を監視し、医療安全について全体的に議論する医療安全委員会を内閣府の下に置けばいいと思います。

次に続く