工学離れの本質

神戸の高度医療に100億円投資へ アブダビ政府系
投資無くして成長なし、の時代ですが、100億円はすごいですね。神戸が先進医療の中心地となる日も遠くはないでしょう。医療崩壊云々はありますが、やはり医療は成長産業ですね。

一方で、私が受験1年前に逃げた工学部からは2年前にこんな記事も。
問題は理系離れではなく,電気系離れということ
受験生の工学部離れを検証する
河合塾によると、理工系志望者が減少しているのに対し、医歯薬保健志望者が上昇しているらしいですね。数年したら工学部と医歯薬保健が逆転するかもという話もあります。

95年には57万人も工学部志望者がいたのに、2001年の電機業界の大リストラが終了して気付いてみたら2005年には33万人まで半減。まぁ、その間に何が起こったかはご承知の通りでしょう。

ちなみに東大の電気電子の進振ランクが非常に低かったというも、向上志向がある私にとっては不満でしたね。やっぱり目標は高いほうがいい。というか、やる気のない人と一緒にいるとこっちまでやる気がなくなるので、少なくともやる気がある人が集まっている学科に行きたいですよね。

ちなみに理学部や農学部ですが、こっちはこっちでバイオ分野の人気の高まりの割に研究ポストが少ないので、ポスドクが余って余って仕方がないという深刻な問題もあります。

正直、私自身は恵まれていると思います。常にリスクに敏感でリスクをヘッジするというクセが身についているためか、何か起こっても第二の道を歩んだり、直前にリスクを回避して何とか転落を避けてきました。新興国投資をしていることからも分かるようにリスクを冒すことは嫌いではありませんが、それが致命的な影響を及ぼすのであれば、それはリスクではなくてデンジャーとかクライシスといわれるものです。これらはリスクマネジメントの考え方に基づけば、リスクのように積極的にtakeすべきものではなく、回避すべきものです。また、リスクとそれに対するコストを考えたときにコストの方が大きければ、当然リスクは回避すべきものということになります。

では、なぜ私が工学部に行くことは不安であり、大きなリスク、いやデンジャーですらあると思ったかということですが、いくつか理由があります。中国やインドの人口は巨大な上に、さらに国家的支援による高度な技術者教育がなされており(最近では日本に留学させると実力がつかないために自国や他国で学ばせる中国人も多いとか)、日本の電機メーカーが海外での生産比率を伸ばしている中では、日本の技術者に勝ち目はないといっても過言ではありません。しかも中国では計画経済で技術者を大量養成したために技術者が過剰気味です。彼らが日本に進出してくると市場原理により日本の技術者の労働単価は必然的に低下しますし、このことはかなり現実味を帯び始めていると言われています。極めつけは、リスクを冒した所で、莫大なリターンをもらえるなんて事は技術者には殆んど考えられないことです。極少数のベンチャーではありうる話ですが、大手メーカーでは開発部長まで昇進できたら万々歳でしょう。正直、避けて正解だったと思っています。リストラのリスクも高いし、リターンも少ない業種より、リスクは中程度でリターンの大きい業種を選ぶほうが合理的です。

国際経済学の基本に比較優位という概念があります。何度も紹介しているので、聞き飽きたという方も多いと思いますが、たとえ他国と比べて生産能力が優れていても、すべてを自国でやろうとはせず、相対的により得意なものをすべて自国がやり、相対的により不得意なものをすべて他国がやったほうが全体の生産量を増やせるというものです。海外移転が行われた理由は海外の方が優秀で低賃金で働く技術者が多いから。工学→医歯薬保健という流れはおそらく、比較優位の産業の変化に沿ったものだと考えられます。中国インドの技術が進歩するにつれ、技術開発という部門で海外の優位性が高まったため、相対的に日本の優位性が低下し、一方で、新興国が追いついていない割に日本では急激に進歩が進んでいる医療やバイオ系分野の優位性がより高まった。ある意味、工学→医歯薬保健というのは自然な流れだと思います。その流れの中で、あえて根性だけで成功確率の低いことに挑戦するのはバカとしか思えません(戦争に負けたのもそんな精神構造からでしょうね)。根性と緻密な計算があってナンボというのが、グローバル社会の基本原則です。

今後、新興国も医療やバイオの技術革新が進むのは確実で、何十年かしたら医療やバイオ産業が衰退し、また別の産業が発展するはずですが、モノが中心の製造業と違って、ヒトが相手のサービス業は言葉の壁というのがやはり厚く存在するわけで、その衰退速度は製造業ほどではないと思います。