本当に公共事業費は過剰なのか?

医療界では公共事業に対するバッシングが一般市民より強いのですが、日本全国を旅行してみて思うことは、無駄な道路・鉄道もあるが、必要な道路・鉄道もかなりある、ということです。都会でずっと過ごし、地方を見ない人々は妄言と言うでしょうが、彼らが「医療現場を知れ」というのと同様に地方の現場に足を運べばその程度のことはすぐ分かります。だからへき地を知る医師は都会の医師に比べてあまり道路予算の削減を叫びません。整備が必要なある場所もある、ということを知っているからです。

あまり知られていないことかもしれませんが、実は小泉改革以来、国の公共事業費は激減しました。今も改革路線ということで年数パーセントで削減され続けています。それはそれでいいことだと私も思います。しかし、今まで作った橋や道路の補修や耐震補強がちゃんと行われてこそ、我々の安心ある生活が成り立つわけで削減にも限度があります(道路は無防備な歩行者や自転車も通るわけですから、落ちてもらっては困ります)。

日本の公共事業費を欧米並みにというのは、正直私は暴言だと思っています。いくつかの日本特有の事情があるからです。

  • 土地代が高い
  • 山がちでトンネルや橋が多い
  • 都市を中心に軟弱な地盤が多く何かと地盤整備が必要
  • 地震が多く耐震基準が厳しい
  • 利用者が高い質を求める(ガタガタだと苦情だらけ)
  • 「自己責任」の概念が乏しく、行政側に高い安全対策が求められている

これらを加味すると、おそらく、建設費でキロ当たり欧米の1.5倍ぐらいかかってもおかしくないと思うんですね。運営維持コストは数倍かかってもおかしくない。外国に行けば、ガードレールや歩道なんてないところも多いですし、照明灯もかなり少ない。トンネルや橋は比較的珍しく、単にアスファルトを引いただけです、というような道路も多い。路肩を見れば一目瞭然です。
快適さと安全性が日本とは比べ物にならないほど低いのですから、欧米の公共事業費は安くて当然です。日本は文化として快適さと高い安全性を求めますから、それなりに金がかかるのは我慢すべきこと。それが嫌なら文化や考え方を根本から変えることです。

無駄は大いに減らすべきですが、目の敵のようにして公共事業を減らすのはそれこそ間違った道に他なりません。人間誰でも利権は守ろうとしますから、結局、無駄は減らせず必要な部分が減ったということもあり得ますね。それで橋が落ちてもらってはえらいことです。「減らせ」と言う側もバイアスがかかった主張ばかりせず、よく考えて適正化を図るべきでしょう。少なくとも何か言いたいのなら、業界の業界による業界のための医療立国論などではなく、土木工学や都市工学の基礎本の1冊や2冊は読んでみるというのが最低限の責任かと思います。

個人的には公共事業の適正化には、道州制やさらなる地方分権など、より住民に近い立場で行政が動けるような仕組みづくりが必要だと思います。住民視点から離れた利権があると分かれば、その政治家を住民が直接落選させられる仕組みが必要です。(日本の総理大臣にもそれは言えるでしょうがね。直接選べないから不満がたまるわけです)