ATSを設置していなかった、は事故の原因か?

一部の遺族が今回の問題をきっかけに、報告書にATS未設置が事故の「原因」であると改めて記載するよう要望しているみたいですね。気持ちは分からなくもないですが、正しい原因究明という観点からは、これは到底受け入れがたいものです。事故を考える時は、遠因(基礎要因)、原因、防御因子、結果をちゃんと区別していかなければなりません。

次に示すのは私なりに考えたあの事故の因果関係を示した図です。若干の不正確さがあったり、一部の要因は無視していますが、だいたい専門家の皆さんの考える構図と一緒であろうと推測しています。

ATSの設置の問題は事故の原因ではありません。事故の原因は回復運転に於いて運転士が速度を出し過ぎ、さらに何らかの心理的要因が原因で現場のカーブまでに十分な制動動作ができなかった、というのが主原因です。一方、この原因→結果の流れを、システムとして食い止めることも可能でした。それが私が「防御因子」と呼んでいるもので、ATS設置や余裕あるダイヤの策定などはそれにあたります。「防御因子」はその役割を鑑みると「原因」とは全く別格のものなので、これを「原因」とするのは非常に大きな問題があります。

一方、事故対策を考える時は「原因」やその背景にある「基礎遠因」を減らすと同時に、防御因子を充実させて、万一何かがあった時でもそれをシステムでカバーできるようにするのが基本的な考え方。再発防止を真剣に考えるなら防御因子が整備されていなかったことを指摘し、是正を求めることには大きな意義があります。でも、それは決して原因とは違う、ということもよく頭に入れておかなければ混乱のもととなるでしょう。

原因と防御因子、この違いを明確にしたうえで正しい報告書をまた載せていただきたいと思います。