足立政務官へ

厚労省足立信也政務官が院内事故調について推進する立場を取っていますが、現実社会をちゃんと見ていないとはっきり申し上げます。
それは「大きな組織ほど組織的に物事を隠そうとし、物事を隠したときの影響力が甚大である」ということです。

今回のトヨタ問題にしてもJR西日本の問題にしてもそうです。だいたい、大所帯と言われる組織は不都合な出来事を隠そうとします。それは、個人や会社の倫理観がなっていないとかそういう問題ではなくて、人間の心理メカニズムを少し考えればごく当たり前のことです。

就職活動での傾向でも分かるように大きな組織の中の人間は概して安定志向の人間が多い。さらに大きな組織では直接顧客や取引先に接する人は一部の人だけであって、少なからずの人が組織内を相手に仕事をしています。すなわち外部社会に対する意識よりも、組織内部やその安定に対する意識が強いので、彼らが持つ価値観では、内部告発によって自身の地位を危うくするよりは、押し黙って自身の保身を図るほうが理にかなっているのです。波風は立てたくない、そういう人が集まってくるのが大きな組織です。

あなたの所属する今の民主党がまさにその代表格でしょう。かつて民主党が発足したてのころ、メンバーの多くが強烈な個性を持ち、高い理想をもって活動をしていたことを幼いながらも記憶しています。自浄能力も高かった。前原時代のメール問題では代表と議員はちゃんと責任を取りました。そのころまで私は常に民主党支持者でした。

しかし、ここ数年自公政権への不信感から民主党が選挙に勝てるようになり、所属議員が増加するにつれて、民主党はどんどん質の悪い政党になっていきました。まずいことは隠し、開き直り、それに違和感をもっても多くの人が黙るようになっていきました。その象徴が今回の小沢問題でしょう。ようやく最近になって一部の重鎮から異論が出るようになりましたが、新人議員はほとんど黙りっぱなし。国民に選ばれた代表なのだから、新人だろうがなんだろうが言うべきことは言えばいいのです。それだけの資格を国民は与えたつもりです。しかし、新しく当選した彼らは民主党がすでに大きな組織になってしまってからの当選だったがゆえに、「外部」よりも民主党「内部」への意識が強く、自身の地位低下や公認取り消しを恐れて押し黙ってしまっています。そんな姿がここ最近顕著になってきたので、私はもう民主党の支持者ではありません。

これが大きな組織が根本的に抱える問題の典型であり、大企業に関する数多くの問題を引き起こしてきた病巣の姿なのです。大きな組織が物事を隠すと、それがたとえ社員一人一人が「ま、いっか」と思うような小さなことであっても、複雑に絡み合ったシステムや市場規模の大きさゆえに、莫大な被害を引き起こす。社員は大したことだと思っていないことでも、物事が重大になってしまう傾向があるのです。だからこそ、大きな組織は定期的に外部からの点検が必要です。

一方、小さな組織でも隠し事自体は日常的にあります。銀行から融資を受けるために会計帳簿を改ざんしたりするのは日常茶飯事でしょう。しかし、小さな組織にいる人は概してあまり安定を重視しない人々です。もともと小さな組織には安定そのものが存在しませんから、そんなものは期待していません。しかも、給料がよくないせいか結構下の人間の入れ替わりが激しい。問題も社員が一人でも全体像を把握できるようなレベルのことなので、意外と内部告発や辞めた人からの告発ですぐに悪事がバレるのです。ただし、補償能力が低いので被害が回復されない傾向が強いという側面もあります。

件数が多く、被害が保障されないので多くの人は「大きい組織は自浄能力があり、小さい組織は危ない」と思っています。それが最近のブランド信仰にもつながっています。しかし、小さな組織の悪事はすぐバレて報道の目にとまりやすく、もともとの組織の数も多いということを考えれば、その認識には極めて浅はかであると言わざるを得ません。むしろ「大きな組織も社員が認識してなかったり、バレてないだけで、実はそれなりの悪事がはびこっている」と考える方がはるかに自然です。それがちょっとした拍子に噴出したのがトヨタの問題であり、JR西日本の問題なのでしょう。

足立氏はあるインタビューで「しかし大きな病院では既に、広尾病院事件などの教訓を生かし自助努力を重ねてきて、逃げない・隠さない・ごまかさないが、ほぼ共通認識になっている」と述べています。しかし、足立氏が見たのは上に挙げた大きな組織の欠点を認識したうえで活動している病院だけであって、すべての病院がこういう認識をもってやっているとは到底思えません。私もいくつか病院を見ましたが、図体のでかい病院よりやや小ぶりの病院の方が全てにおいて対応がスムーズで、自浄能力が働いていると思いました。事故の調査という観点では、大きな病院こそ定期的に第三者からのチェックを入れる必要があると思います。小さな病院に対しては山本病院のように問題が頻発したり、告発があるようなところだけを調査すればそれで十分です。一方で被害の補償という点では小さい病院や診療所に対して重点的に対策をした方がいいと思います。