診断とは確率である

いま、統計学を勉強しているわけですが、週刊朝日という雑誌で「非常識な医師ブログ」に挙げられていた「なんちゃって救急医」先生の記事がとっても素晴らしいので紹介させていただきます。(もちろん、これは週刊朝日への皮肉です)
診断とは確率にすぎない
そのなかから面白い問題を引用しますと

問題1 
ある均一なサイコロがある。安倍君がこれを振った。小泉君が先に出た目を見た。そして、安倍君にささやいた。「奇数の目がでているぞ」と。ただ、小泉君は気まぐれなところがあり、1/10の確率で、逆のことを言う。さて、小泉君の話を聞いたことによって、安倍君のだしたサイコロの目が1である確率は、1/6から、いったいいくらになったのであろう?同様に、「偶数の目がでているぞ」と言った場合はどうであろうか?

問題2
日本国民の1/6もが罹患しているという新しい病気が見つかった。メタポリック(Metapolic)病という病気だ。タゲタ薬品会社は社を挙げて、この疾患を診断する迅速キットを開発した。このキットのこの疾患に対する感度は90%、特異度は58%であるという。安倍君はさっそくこのキットで自分を診てもらった。検査は陽性であった。安倍君の罹患確率は、1/6から、いったいいくらになったのであろう?同様に、陰性であった場合はどうであろうか?

補足:
感度と特異度について(一般の方、中高生の人向け)
ある検査に陽性と聞くと、多くの人は「私は〜病なんだ」、あるいは検査に陰性と聞くと「よかった。私は〜病じゃない」と早合点してしまいがちです。しかし、検査というものは人間と同じでウソをつくことがあります。もし、本当に病気にかかっているのに検査で検出できなかった場合、これを偽陰性と言います。逆にもし、本当は病気にかかっていないのに検査で陽性が出た場合、これを偽陽性と言います。これを表であらわすと次のようになります。

  検査陽性 検査陰性 合計
病気 真陽性(a) 偽陰性(c) a+c
病気でない 偽陽性(b) 真陰性(d) b+d
合計 a+b c+d a+b+c+d

それぞれの確率をa,b,c,dとしたとき、感度というのは、陽性のものを正しく陽性と判定する確率、すなわちa/a+cを感度といいます。乱暴になりますが、感度が高い検査というのは、検査で陰性と判断されたらほぼ喜んでいい検査ということになります。
一方、特異度とは陰性のものを正しく陰性と判定する確率、すなわちd/b+dを特異度と言います。これまた乱暴な言い方ですが、特異度の高い検査とは陽性だと判断されたらほぼ病気と見て間違いない検査です。

ただし、勘違いしないでください。乱暴だとわざわざつけたのは、これらの解釈はその病気の有病率によって大きく左右されるからです。上の乱暴な言い方がどちらも成り立つのは有病率a+c/a+b+c+dが0.5前後の話だけです。たとえば有病率が非常に高い病気では、偽陰性(c)の数が多くなりますから、感度の高い検査で陰性(c+d)と判断されてもかなりかなりの割合が本当は病気(c)ですから、感度はあまり意味を持ちません。このような場合、病気にかかっていることが前提で、特異度の高い検査を使ってその人が病気でない可能性があるのかを確認するという流れになります。
逆に多くの病気がそうなのですが、有病率の低い病気では偽陽性の数が多くなりますから、特異度の高さは重要ではありません。むしろ感度の高さが重要で、感度の高い非常に検査なら偽陰性、すなわち見落としをゼロに近づけることが出来ます。ちなみに、有病率とは「その検査をする前にその人が病気である確率」と考えてもらっても構いません。したがって検査を重ねれば重ねるほど、通常、その人の「有病率」はどちらかに偏っていきます。
なお、ほとんどの検査では、検査キットの製造メーカーから実験などから得られた感度や特異度のデータが提供されます。

ちなみに「乱暴な言い方」ででてきた「陰性だと判断されたらよろこんでいい」というのは専門用語では陰性予測値といい、(1-有病率)×特異度/{(1-有病率)×特異度+有病率×(1-感度)}=d/c+dであらわされます。有病率が0.5の時はこの式は特異度/{特異度+(1-感度)}となりますから、感度が高ければ高いほど陰性予測値は高くなります。逆に「陽性だと判断されたら病気だと思っていい」というのは専門用語では陽性予測値といい、有病率×感度/{有病率×感度+(1-有病率)×(1-特異度)}=a/a+bであらわされます。有病率が0.5の時はこの式は感度/{感度+(1-特異度)}で表されますから、特異度が高ければ高いほど陽性予測値は高くなります。

今の説明で分かっていただけたかは少し不安ですが、頭のよい方なら次のことに気付かれることでしょう。
「検査や診断とは確率であって、感度や特異度の異なる複数の検査を組み合わせていくことで、見落としや早とちりといった誤診を減らしていく作業なのだ」

さて、この知識をもとになんちゃって救急医先生が出題された問題を考えてみてください。

そして、「無駄な検査ばかりしているから定額制にして検査を減らそう」と言いつつ「誤診を減らし、医療の質を上げるべきだ」と言う経済界やマスコミ、一部世論の言い分について考えてみてください。ついでに「誤診だ、医者が悪い」と断定する人の言い分についても考えて見てください。