改革に対するリスクの認識こそが求められている

今の日本の構造改革全体を見ていると、東京や都市部への一極集中政策から来ている弊害が非常に多いように感じます。「医師不足」ももちろん絶対数の不足は否めませんが、偏在も存在することは確かですし、それが地方の医療に深刻な影響を及ぼしています。やはり、私は色々な機会でいつも申し上げているのですが、これらの問題を根本的に解消するには
「地方分散か都市集中か」
「今の医療体制を維持するのか」
という大命題に国民全体で結論をつけていくことしかないのではないかと思います。その方向性を決めずして医師を増やしたところで、最終的に地方が医療だけではなく経済や行政までが成り立たなくなっていった時に、あるいは現在のフリーアクセス、皆保険など日本が維持してきた医療体制が崩壊した時に、被害をこうむるのは増えすぎた医師自身ということにもなりかねません。

一人ひとりがコスト感覚と財務収支の感覚を持った上で、現状の医療体制を維持することに対するリスクや負担増を許容できるのか・・・単に「税金減らせ、医療費増やせ」と叫ぶのではなく、国を一つのシステムとして考え、それが成り立つのかということを吟味した上で今後の方向性を決めていく、そういう議論が今の日本国民に求められていると私は考えます。

投信や株といった投資をするときに必ず聞かれる項目があります。それはリスクに対する認識です。

  1. 安定性重視でリスクは許容できない
  2. リスクがあることは止むを得ないが、安定性は重視する
  3. 利益を求めたいのでリスクは許容する
  4. 大きなリスクを買ってでもとことん利益を追求する

だいたい、表現は証券会社や銀行によっても違いますが、4段階程度にリスクと利益に対する考え方を聞かれます。4番を選べば新興国株でもなんでも投資できますが、1番を選べば安定型の投信すら買えません。

今、日本国民がしなければならないことは目前にある医師不足を声高に叫ぶことではなく、投資の判断基準のように、日本全体が大きくどういう方向に向かうかということを数種類の選択肢から選択することだと思います。それぞれの選択肢にそれぞれのリスクとベネフィットがあります。現状維持をすることのリスクもあります。改革をすることのリスクもあります。多くの国民は「改革がいいことだ」と単純に考えていますが、改革は新興国株投資のごとく大きなリスクを伴った投資行為です。改革によって国全体が崩壊する危険は常に存在します。なぜなら改革とは、その定義上、今まである一定の範囲に落ち着いていたファクター間の関係を大幅に変える行為だからです。私は今の日本人の一番の問題点は改革には非常に大きなリスクを伴うということに気付いている人が少ないことだと思います。医療崩壊はある意味、近年の構造改革の中で具現化した改革リスクの一つにしか過ぎません。改革には本質的に大胆な決断と同時にその影響に対する細心の監視が求められるのです。このようなリスクを考えた上で、日本の今後の方向性を決めていく。その上で、医師不足が今後の日本にとって問題であるのならば、それに対する解決策として医学部定員を増員すればいいのです。

国民に強い影響力を持つマスコミには、単に「改革=善、現状維持=悪」という構図を作ることなく、それぞれのリスクとベネフィットを前面に出した議論を積極的に誘発してほしいと思います。

共同通信の記事から

「究極の選択」に苦悩 住民へのしわ寄せ懸念も 「大型サイド」医師不足対策で小児科、産科集約化

医師不足に悩む地方に対し、国が"緊急避難措置"として示した小児科や産科の集約化・重点化。「究極の選択だ」と、地域の診療機能縮小など住民へのしわ寄せへの懸念から、容易に結論を出せずにいる自治体も多い。「医師の絶対数を増やさない限り問題は解決しない」。現場からはそんな声も聞こえる。

 「交通の利便性に欠け、医療の空白地帯が発生してしまう可能性がある」(青森県)、「なるべくやりたくないが、それ以外の具体策は見つからない」(岐阜県)。小児科や産科の集約化・重点化の検討を迫られた自治体の担当者は、口々に悩みを訴えた。

 ▽責任持ってやれ

 いずれの科も結論が出ていないという京都府は「『医師が足りないから集約化』というのは住民の意思が反映されていない。医師が集まる側の自治体や住民は歓迎かもしれないが、逆の側はそれを嫌う」と慎重な立場。ある自治体の担当者は「医師がいないのが問題。都道府県が責任持ってやれと言われても...」と困惑する。

 一方、島根県では一部地域で小児科の集約化を既に実施。医師が3人いる病院に、別の病院から1人を移し4人体制とした。供給元の病院は小児科医がゼロとなり、平日昼だけ派遣医師が診療に当たる。担当者は「地域によっては今後、集約化した上で、遠方から通院する患者に補助を出すような事態になるかも」とため息をついた。

 ▽数合わせ

 小児科、産科とも集約化・重点化を「必要」とした秋田県。担当者は「集約化を進めると地域に医師がいなくなり、雪が降る冬は患者が病院に行くのに2、3時間かかることになる。デメリットが大きく、検討に加わった委員からは『都会の論理だ』との意見も出た」と打ち明ける。

 北海道も両科の集約化方針を打ち出したが、住民の不安は強い。根室市ではもう既に、市立病院の医師不足のためお産の受け入れがなくなった。

 「臨月を迎えても自分で車を運転し、2時間以上かけて釧路市の病院に通う妊婦もいる。冬に吹雪に巻き込まれたらと思うと恐ろしい」と訴えるのは「根室市産婦人科医を求める会」代表の内山利子さん(75)。

 「集約化は机の上の数字合わせ。住んでいる人間のことを忘れているのでは」と国の施策への疑問を投げ掛けた。

 ▽偏在か不足か

 「『不足、不足』という地域に限って(医師確保のための)努力が足りない」「住民にとって一番良い方法を、地方自身が見つけてほしい」。医師不足問題で厚労省はこれまで、自治体の"自助努力"を求めてきた。医師の全体数は長期的には足りており、医師不足問題は地域や診療科ごとの偏在によるものとの立場が前提にある。

 参院選を控え政府・与党は5月末、医師不足が深刻な地域に国立病院などから医師を臨時に派遣する構想など6項目の対策を示したが、「派遣する余裕がある病院などどこにあるのか」と実現性を疑問視する声もある。

 埼玉県の済生会栗橋病院副院長で、特定非営利活動法人「医療制度研究会」の本田宏代表理事は、経済協力開発機構OECD)の統計などを基に「日本は海外の主要国と比較して人口当たりの医師数が少ない。国が主張する『医師の偏在』ではなく、絶対数不足という根本的な事実を是正しない限り問題はなくならない」と話した。

参考:1県1医大構想が生んだ“医師不足”
確かに人口10万人あたりの医師は西高東低といわれます。偏在も大きな問題であることは確かです。