続・医療崩壊論を考える

僕自身は東京に行く前から多くの医療ブログを何ヶ月にも渡ってウォッチしてきたし、学会などでの医師不足のセッションも何度か聞いてきたので、だいたい医療側が主張する内容の多くは知っているつもりです。学会などで呼ばれた厚労省の官僚が医療側から集中攻撃を受けている様子なんかも何度か目にしています。ご理解いただきたいのは、その主張を知った上で、過熱している医療崩壊祭りをもうちょっと冷静に見つめなおそうじゃないかという意図でここ数日のエントリを書いているということです。決して、地方の医師の危機感を知らない、理解していないわけではないということはご理解願います。

医師不足論について
医師は偏在ではなく不足している、という議論はかなり医療側からは根強いのは確かです。かつて厚生労働大臣が、誰だったか忘れましたが議員から「じゃあ余っているところはどこなんだよ」と言われて、10万人あたりの医師数が最も多い徳島県を挙げて総スカンを食らったことがありました。おそらく、徳島県でも不足感が強い地域はあるのだろうと思いますので、ああいう事態になったのだろうと思います。

実は、この医師不足を考える上で忘れてはならないことをいくつか挙げますと

  • 医師がある程度足りていると感じる病院は、わざわざ「足りている」と声を上げない
  • 同様に医師が足りている地域はわざわざ「足りている」とは声を上げない
  • 開業医の先生の一部は「暇だ」とは言うけれども、自ら「医師がここに余っているよ」とは言わない
  • 従って「不足している」という声だけが大きくなり、一見すると「足りている」「余っている」という声はないように見える
  • 「足りていない」のは、現状の患者を現状の質でさばくために医師が足りていないのか、病院が事業拡大や質の向上をする上で医師が足りていないのかが不明
  • さらに強いて言えば、今まで普通に耐えていた環境に医療崩壊問題を知った医師、医療裁判の増加や医療攻撃を恐れた医師が心理的な不安を感じて「足りない」と言っている可能性も否定できない
  • 医師は離れた地域間での交流が少ない。全国的に見たら比較的楽な環境にいる医師も、たまにある当直などのプレッシャーで過重労働だと思っている可能性はある
  • 最悪な話、まわりの風潮に流されて「不足だ」と言っている医師や市民がいないとは限らない
  • 特定の地域、診療科で不足していることの範囲を広げすぎて、全体が不足していると言ってしまっているのではないか

こういうことを書くと医療側からすれば大反発なのかもしれませんが、中立的な視点で見ればこういう要素はないわけではないと思います。ある意味、タミフルに数十人精神錯乱の副作用があったからタミフルは危険なクスリだ。廃止しろ!と言っているのとあまり変わらない側面もあるのではないかと思います。タミフルでインフルエンザがマシになった患者は「タミフルはいいクスリだ」とは言いませんからね。なんせ「医師不足」の根拠となるデータはOECDの比較データだけですし、国によって医療事情は違うわけで、僕自身はこのデータだけで医師不足を論拠付けるのは危険な気がします。
勤務医不足とか、地方の医師不足とかならば確実にいえるとは思うのですが。

私は昨今の「医師不足」問題でやっぱり「偏在」が90%以上原因で、不足は僅か数%程度だと思うのですが。なんせ大学病院では皮膚科(=美容形成狙い)の入局者の方が内科全部あわせたよりも多いところもあるんですから。あとは、医療従事者が無駄な書類書きに追われていたり、ベテランが大学病院で普通の点滴までさせられているというようなことも原因ではあると思います。医療従事者間の役割分担の強化と医療補助者の新規雇用で随分、事情は変わりそうな気がしますが。(それは厚労省としてもなんとかしたいと思っているはず)

もっとも安全・質の向上や医療裁判への恐怖、国民の医療への攻撃というものがこういう現象を誘っている面はあるので、その対策は早急に図らねばなりません。法曹との交渉とか、国民レベルでの意識改革が必要なので、結構難しいとは思うのですが。ADRはあんまりうまく行ってないらしいですね。やっぱ刑事訴訟法民事訴訟法の改正が必要なのか・・・・。マスコミが大々的にキャンペーンをやってくれたら随分動きも変わるだろうなぁと思うのですが・・・。

私は医療崩壊の原因を大きな順にこのように位置づけます

  1. 医療従事者への国民の攻撃、医療不信
  2. 医療の質の向上・安全対策に伴う業務量の急増
  3. 新医師臨床研修制度による医局の崩壊とそれに替わる機構の不在
  4. 医療訴訟の増加、警察の捜査姿勢
  5. 医師の科や地域による偏在、病院勤務医の疲弊、開業の増加
  6. 医療費抑制政策
  7. 医療従事者の役割分担不足
  8. 女性医師の増加
  9. 若者の嫌なものを避ける風潮(モラルハザード
  10. 医師そのものの不足

(もし、自分はこう思うという方がいらっしゃれば、コメント欄ではてな記法を使ってコメントしていただいても結構です。行頭に+を持ってくると番号付き箇条書き、-を持ってくると・付き箇条書きになります)
1番〜6番が大きいでしょうね。医療崩壊論を考えるのエントリで、大野事件で敗訴したらとんでもないことになるという指摘がありましたが、たしかに産科ではそれは否めないかもしれません。

とりあえず、心の中でくすぶっていた医師不足論、医療崩壊論への疑問は書き尽くした感じがします。医系技官の方にも「医者はいったいどこにいっちゃったのか」という疑問をぶつけてみたりもしたんですが・・・。いくつかは皆さんのコメントのおかげで、疑問が解消したものもあります。とりあえず、お盆の医療崩壊特集のエントリは一旦終了したいと思います。

テスト勉強も学祭の広報委員長の仕事も、静岡の研究所でのナノバイオの体験研究も残っていますし。ちょっと仕事を抱えすぎです。9月からのテストが少し心配になってきました。あと半月ですしね。

今、夕方7時近くなのに室温が35度を越えています。水をまいて窓を開けて扇風機を回しているのでなんとか耐えてますが。こんなに暑かったですかね?日本って。単なる猛暑なのかそれとも地球温暖化なのでしょうか。夕立が恋しいです。あぢ〜。