統計いじり

霞ヶ関に行ってよかったことは、統計に気を配るようになったことでしょうか。他の部署が納得できるようにものを言うためにはデータを出さなければなりません。
いろいろいじってます。もっとも、これらの調査は全数調査が基本なので標準誤差の問題などを考えなくていいのが気楽でいいのですが。

ちょっと気になるグラフを

今回も平成10年と平成16年の比較です。
実は医師(医療機関従事)の平均年齢は案外高くて48才前後です。日本人の平均年齢が42歳前後であることを考えると、遅咲き、一生医者の人が多いからでしょうか。若い医師が比較的多く入っているため、6年前と比べても平均年齢は0.6才ぐらいしか増えていないのですが、45歳以上60歳以下の医師というのが非常に増えてきています。6年経てばほぼ、グラフが一つ分ずれるので特におかしなことはないのですが、昔に比べると40代から50代の医師が増えていることになります。実はこの時期は俗に言う「開業適齢期」です。だいたい、開業するなら50歳前後までと言われています。なぜか。体力的な問題、余命的な問題で65歳で医院を閉じるとして、開業時の初期投資の回収がちゃんとできることを考えるとそのくらいにならざるを得ないのです。60歳で開業して65歳でやめちゃったら、初期投資のかなりの額は回収できません。それならバイト医とか、老健医なんかで過ごす方がよっぽどいい。ということで、「開業するなら50歳前後までに」ということが言われておるわけです。

で、よく見たら開業適齢期の医師がここ6年で非常に増えているわけですね。ということはみんな勤務医を辞めて開業しているわけです。ここ数年の開業ラッシュはこの影響が大きいものと考えられます。開業適齢期未満(=大部分が勤務医の年齢層)の医師の数はあまり変化していませんので、勤務医自体は一応増えていますが、病院としては今まで厚かったベテラン層が一気に開業していき、新臨床研修制度で医師がとりあえず一人前になるのが遅れている影響で、勤務医不足感が強いものと考えられます。いわゆる病院にしてみたら「使える勤務医」の数が減っているのでしょう。どちらか片方だけならば、影響はある程度緩和できそうなのですが・・・。結局、厚労省は新臨床研修制度の導入のタイミングを見誤ったということなのでしょうかね。もっとも、あの制度の導入を強く後押ししたのは白い巨塔に対する不信、医療不信ですからやむをえなかったのかもしれませんが・・・。

もしかしたら、勤務医の役割そのものを見直していくことが必要かもしれません。イギリス型のアクセス制限なども含めて考える時期に来ているのかもしれませんね。

追記(コメント欄に書ききれないので)

のりのりさんのコメントを受けて

のりのりさんコメント有難うございます。
とりあえずお役に立てているかどうか分かりませんが、報告です。
1番目の疑問である35歳以下の医師数が微妙に減少している理由について
H10年のデータでは35歳未満の医師は58,883人、H16年では57,644人と1000人ちょっとの現象となっています。この原因はいくつか考えられるのですが、まずはH10(1998)年の段階で34歳の医師というのは20歳で医学部に入ってきたと考えると1984年、19歳だとしても1985年に入ってきた人が多いわけです。この年の医学部入学定員は8,340名と、2005年の7,695名に比べると年間600名以上医師が多くなっています。いわゆる120名世代が上の方に混じっているのです。また、医学部定員の大幅な削減が完了した1990年以降も数年間、少しずつではありますが、定員は減少してきました。
また、平成12年、13年と医師国家試験の合格率が非常に悪かった年があり、その反動は14年にきているのですが、総数を足しても100%ではなく、医師としての仕事を諦めてしまった人も多かった可能性が考えられます。
医師国家試験受験者・合格者・合格率

平成3年(1991)卒ということは留年がないと仮定して1985年入学で8,340人の時代でしたから、減っているのは医学部定員削減の影響といえるでしょう。
ということで、勤務医不足の原因の一つは1980年代後半から進められた医学部定員の削減にあることは間違いないです。ただ、医学部入学定員が8000人を越えているのは1980年代だけですし、実際のところは急激な勢いで増やしたのをちょっと戻したにしか過ぎません。でも、研修制度も相乗して結果的に大きく影響が出ているようですね。詳しくは下のグラフをご参照ください。

ついでに「医学部定員増加に関する問題」について宣伝しておきます(笑)。
僕自身も、本音レベルでは医者増やしてくれたら負担が減って有難いのですが、医療費削減路線が規定路線になっている以上、これ以上医者の給料を減らして欲しくないのです。近年、訴訟リスクが大きくなっているので、医陪責だっていつ値上がりしてもおかしくない(もう値上がりしているかもしれませんが)状況ですし、都会は医師の集中でかなり厳しい競争となってきていて、ワーキングプアーが発生する可能性も否定できません。勤務医では病院がつぶれるのが先だと思うのでそれはないと思いますが、最近では開業しても1、2割ぐらいがうまくいかずに多額の借金を抱えているという噂もあります。医学生の中には、40歳で年収1000万越えないようなら医者せんとこかなぁ〜みたいな、雰囲気の人も多く、余計に医者の数が減ってしまう可能性が非常に心配です。だから、できるだけ偏在対策や看護師等との役割分担、医療補助職の導入をしっかりやってもらって、それでもダメというなら増員という方向がベストだと思っているのですが。
あと、もう一つ以下のグラフを見ていただきたいのですが、少子高齢化が進む中で18歳人口当たりの医学部定員の割合というのが、2010年には定員増加を行わなかったとして10万人につき600人以上になる見込みです。ここには示していませんが、250人の地域枠が2010年までに実行されているとすると2010年で657人、すべての医学部定員が1割増しになると、700人を突破します。1万人に70人は医師になるのです。1950年代と比べると実に6倍、1970年と比べても3倍以上の割合です。この状況が今後の日本の経済や国益としてよいのかという疑問は常に付きまといます。特に医学部はここ数年非常に競争が激しくなっており、「東大より医学部」の流れが非常に強くなっています。ドラゴン桜医療崩壊で多少マシになる可能性はありますが、言ったら悪いですが、どうせ死に行く爺婆のために、それだけ日本の将来のブレインを沢山使ってよいのかという疑問はどうやってもぬぐえません。僕自身がそういう経緯を持つだけに、このことは非常に気にしています。一般的に偏差値の高い医学部の定員を増やすことは医療だけの問題にとどまらないのです。今後、医療に限らず少子化で全体的に人材が不足してきます。人材の取り合いになる可能性は高いです。

2番目の疑問である、最近の開業年齢は35歳から40歳ぐらいであるということですが、そういう話は確かによく聞きます。実は割合ベースでは40代ぐらいの医師の多くが勤務医として残っているデータはあります。
ちょっと分かりにくいですが、世代ごとの医療機関従事医師数を分母にして、世代ごとの病院勤務医の割合をグラフにしました。もっとも地方の公的診療所なんかは医療法上、病院には組み込まれないという問題はありますが、ここでは無視しています。

おっしゃるように30代が僅かに減少しています。あと50代も減少しています。逆に40代は増えています。40代の医師が開業待ち、開業諦めの状態になっている可能性は高いです。しかし、医療崩壊でそれも士気が持たないということで、平成18年にはもう少し病院の割合が減っている可能性はあるのではないかと読んでいるのですが・・・。
もうすこし、はっきりとデータをお示しするために割合ではなく実際の医師数の推移(H10→H16)で示しますと、

  • 20代の病院勤務医は、20代の医師全体の減少により26,487人→25,605人と減少(96.7%)しています。
  • 30代の病院勤務医は医師の減少と開業割合の増加で59,184人→56,979人と減少(96.3%)しています。
  • 30代の診療所医師の数は医師の減少と開業割合の増加が打ち消しあって6,847人→6,878人(100.5%)でほぼ変わりません。
  • 40代は医師数の増加(国立120人時代)により病院・診療所とも医師は増えていますが、どちらかというと昔よりは勤務医が多いようです。
  • 50代は医師数の増加(医学部定員が増加していた)により、病院・診療所とも医師は増えていますが、どちらというと開業する人が多いようです。
  • 爺医が病院勤務で頑張っているようです

数自体では30代の医師が顕著に開業しているというデータは出なかったのですが、割合的には若干増加傾向にあるということはあるみたいですね。

3番目の疑問である、純増3500人は爺医がやめないものであるという説について
えっと、理論的には
医師純増数=その年の医師国家試験合格者−死亡などによる医師免許返上及び取消者
ということになります。これで厚労省が言っているのが3500人〜4000人/年増えているよ、ということです。鬼籍が把握しきれていないのではないかとの問題はありますが、厚労省はちゃんと2年おきに医師の勤務実体調査(いわゆる3師調査。高齢者に関しては若干、補足しきれていない率が高いようですが)をしていて、そちらの方でも3300人ずつ増えているというのは出ているので、それは大丈夫です。
まず、3000人の基本的な意味ですが、大昔に比べれば今は医学部定員が多いので、その差が3000人(正確には3300ぐらい)というだけです。この3000人という数字は医学部定員が増加していく時代(一県一医大構想時代?)の医師が死亡時期を迎えるにつれて減少していき、やがてはほぼ均衡していくものと考えられます(もちろん厚労省の医師数の予測はその辺も考えてあります)。

で、のりのりさんのおっしゃるように、本当に爺医がやめてないかと言うと、先ほど上に出した表を用いて計算すると病院勤務の60代以上の医師は13,720→14,603で、6年間で900人前後増えています。1年間で150人ですね。ただし、これは単に爺医が頑張っているというだけではなく、この世代の頃から医学部定員が徐々に増えてきたという影響もあるので、一概には言えません。H16(2004)年に60歳の医師が入学した頃は1963年頃ですから、先ほどお示しした定員のグラフからも見て取れますように徐々に医学部定員が増えつつある時期です。ただ、高齢医師が病院に残っている傾向はあるのかもしれません。しかし、全体的に病院勤務医師は増えていますから病院勤務医全体に占める高齢医師の割合はH10、H16とも8.9%前後と大きな変化はないです。

明らかな変化が出ているのが診療所の爺医たちです。表でもお分かりの通り60代の医師の数が10%以上減少しています。高齢医師全体数では39,183人→37,267人で、ライフスタイルの変化なのか過労による疲労か、あるいは調査に非協力的な医師がこの世代に多いのか、それはちょっと分かりませんが、「60過ぎたら定年だし普通の医者仕事はや〜めた」という人が多くなっているのかもしれません。老健医なんかになっているのかもしれませんね。
ということで、診療所の医師の中で高齢医師の割合は46.7%→40.1%と6年で急降下しています。

全体としては高齢医師の数は52,903人→51,870人と若干減少気味です。ただし、今後、医学部定員が増やされてきた世代が高齢医師となるとこの値はまた増える可能性は高いです。従って、3番目の疑問に対する答えははっきりとは出せませんが、現時点では単純に若い医師が増えたおかげで3000人/年であると考えた方がよさそうです。定員減らしの前なんかは4000人/年ぐらいはあったのかもしれませんが。

30代ぐらいの若い病院医師が減っている、というのは確かで、それは1980年代後半の医学部定員減などが影響しています。ただ、それはすでに予想されるというか当たり前のことです(定員を減らしていることは既知なので)。そこで単純に病院数の推移を見てみますと9,333病院→9,077病院(96.5%)とこちらも数の上では若手の勤務医師の減少とほぼ同じ割合で減らされています。病床数ではそこまで減ってないのですけれども。もっとも高齢化、質の向上になどによって医師の仕事量は格段に増えていますので、勤務医が足りないというのは当たり前のことでしょうね。

ある意味、厚労省文科省は定員のブレーキをかけるのが早かったのかもしれません。高齢化を考えると本当は10年、15年ほど先延ばししてもよかったのですが、早とちりか吉村論文のインパクトが強すぎたのかで1980年代後半にかけてしまったのです。従って、今後10年ほどの医師不足自体は確かです。実際、現時点では厚労省がいう適正人数よりは下ですからね(10万人あたりの医師数の算定基準が時代によって移り変わってきたということもある)。その分は、全体が労基法を逸脱したoverworkで働いてもらわなければならない。(でも医者とは昔はそういう職業だったわけです。そこを、医療不信なんかで我慢できなくなってしまったという側面も強いのです。局長が「不足というのは価値観の問題」というのはそういう面では非常に正しい)しかし、それを医学部定員増で解決することにどこまでの意義があるのかということは、よくよく検討しなければなりません。一部の医療ブログでは医師不足に関する計算も行われていて、それには一定の合理性がありますが、だからと言って「医学部定員を増やせ」と単純に叫んでメリットになるかどうかは微妙です。今回犯したような失敗を逆方向で犯してしまうかもしれません。社会としてそれがいいのかという問題もあります。
あと長谷川敏彦という厚労省ご用達(=研究班などに採用されている)の学者さんが言うのには、日本は非常に医師一人あたりの仕事効率が悪いのだと。何かがおかしいとおっしゃっています。そこを改善していくという方策も取っていかないといけないのではないでしょうか。

ここ数年後の予測としては、多くの高齢者が亡くなっていくまで、皆に分担してoverworkで働いてもらうか、それができずに崩壊するかのどちらかだと思います。そこには「士気」が大きなファクターとして働いてくると僕は見ています。医療崩壊を医療者に周知することが医療崩壊を加速しかねないと懸念するのはそのためです。