改革が求められているのは国の対応ではない、国民の考え方だ

朝日新聞より

11病院拒否 妊婦の悲劇教訓生きず 救急システムに穴

 お産の医療現場で悲劇は繰り返された。29日朝、奈良県橿原市の妊婦(38)が病院に相次いで受け入れを拒まれて胎児を流産した事態の始まりは、昨夏にも妊婦が死亡したのと同じ県内で起きた。行政が主導する産科医療の受け入れシステムは機能せず、近畿の広域連携の仕組みも構想どまりのままだ。関係者は「一刻も早く解消を」と訴えた。

 奈良県橿原市の中和広域消防組合に、同市のスーパーから男性の声で119番通報があったのは29日午前2時44分。「妊娠している。下腹部が痛いと言っている」

 8分後、救急隊員3人を乗せた救急車が到着し、店内のベンチに横たわっていた女性を収容。1キロ余り離れた市内の県立医大病院に受け入れを求めたが、同病院では別の妊婦を受け入れたばかりで断られた。

 消防は県のインターネットシステムも使って受け入れ産科を調べたが、県内の医療機関はいずれも「不可」。大阪府内の病院に協力を求めた。

 大阪府和泉市の府立母子保健総合医療センターには、午前3時17分ごろに電話が入った。同センターは高度医療を行う「総合周産期母子医療センター」で、一般救急は原則として受け入れていない。電話交換を受託している業者の職員が「紹介型病院なので、一般救急は受けていない」と答えると、「それならけっこうです」と電話は切れたという。

 ただ、当時、同センターには空き病床があった。牧野幸雄・事務局次長は「救急搬送を受け入れるかどうかは最終的には当直医の判断。消防側からどうしても、と強く言われて電話をつなげば、受け入れられた可能性もある」と話した。

 府内のほかの7病院からも処置中や満床を理由に断られ、高槻病院が受け入れ先に決まったのは、救急車が現場に到着してから約1時間半後だった。

 奈良県には二つの救急搬送システムがある。救急が一般の救急患者の受け入れ先を探す「救急医療情報システム」と、医療機関がハイリスクの妊婦や新生児を別の医療機関に搬送する「周産期医療システム」だ。「周産期医療」では、県立医大など2カ所の基幹病院が窓口となって、受け入れ先を探すため、比較的受け入れ先が見つかりやすい。だが今回のケースは、医師からではなく、救急からの通報だったため、「ハイリスク」の患者と認識されず、消防が単独で受け入れ先を探すことになったという。

 同県では昨年8月、大淀町の町立大淀病院で出産中に意識不明となった高崎実香さん(当時32)が県内外の19病院に転院の受け入れを断られた末に死亡する問題が起きている。

 県はその後、県立医大病院内に、リスクの高い妊婦や新生児を対象にした高度な医療を行う総合周産期母子医療センターの開設を進めてきたが、開設時期が来年1月から同5月にずれ込んでいた。県健康安全局の米田雅博次長は29日午後に記者会見を開き、「反省点としてすぐに検証していきたい」と話した。

 一方、大阪府には「産婦人科診療相互援助システム(OGCS)」と呼ばれるネットワークがあり、府内の41病院がベッドや新生児集中治療室(NICU)の空き情報などをパソコンで共有している。だが、この仕組みは、ハイリスクな周産期の救急患者を対象にした病院同士の二次救急の援助システムで、消防からの救急搬送は想定していない。

 事故を受けて、厚生労働省から「奈良も利用は可能か」と問い合わせはあったが、府は「関係機関と調整しないとできない」と回答した。

 近畿と福井、徳島の2府6県は今年3月、「近畿ブロック周産期医療広域連携検討会」を発足させた。自府県内で二次救急の搬送先が見つからない場合に迅速に搬送先を探せるルールづくりを9月中に行う予定で、そのさなかに事故は起きた。

<解説> 深刻さ増す産科医不足

 昨年8月、奈良県大淀町の町立病院の妊婦が19病院に搬送受け入れを拒否されて死亡した問題などを契機に、各地で産婦人科医の集約化や搬送体制の充実についての検討が進められてきた。しかし、医師の絶対数が少ないため、改善は一朝一夕には進まないのが現状だ。

 奈良県は来年5月、県立医大病院に高リスクの妊婦に対応する総合周産期母子医療センターを開設する計画だ。開設にはさらに3人程度の産婦人科医が必要で、医大病院は確保に奔走しているが、困難を極めているという。奈良県が搬送先として頼る大阪も、現状は厳しい。周辺の産科の分娩(ぶんべん)制限や休診が相次ぐなどして、大病院に妊婦が集中し、搬送受け入れ率は低下している。

 お産の250例に1例で妊産婦が命にかかわる緊急の治療を受けているとの報告がある。医療の向上や医師の努力で妊産婦や赤ちゃんの死亡率は抑えられてはいるが、医師の不足が大きく、地域的な対策には限界がある。国の真剣な医師確保策が求められている。

結局のところ、産科医が数多くやめたり、婦人科だけに限定して医業を行うようになっているもともとの原因は「お産が限りなく100%安全に近い行為であるべきだ」という国民全体の多くが持つ妄想・誤解によるものです。裁判官も厚労行政も結局のところ世論に左右されるところがありますから、世論の総意として「お産は大きなリスクをともなう行為である。accidentはある程度やむを得ない」という認識が広がらなければ、産科の取り巻く状況は厳しいままでしょう。朝日が言うように産科の医師不足の問題も確かにあることはありますが、この国民の考え方が変わらない限り、たとえ医師を増やしたところで産科医の実働数はほとんど増えないと思います。

人間がこの世界で生活する以上、すべてにリスクがともなう。そして、そのリスクの多くは、何かあったときに他のものに責任を押し付けるのではなく、最終的には自らが負っていかなければならない。そういう認識が国民に広がってはじめてこういう事件は解決していくのです。国民のリスクに対する意識改革こそが今、この21世紀に求められています。

国の対応をいじるだけでは決して解決策にはなりません。朝日新聞のように何かがあると問題の責任を他者に無理やり押し付けるマスコミの体質そのものがこの問題を悪化させる方向へ仕向けているのです。本当の問題は我々国民の中にあるのです。

小学校から「リスク教育」というものを行っていくことは大事だと思うのですがね。