厚労省・財務省の真意

あくまで推測という断りはつけますが、開業医の報酬下げの真の目的は収入の是正ではないですね。
勤務医の開業を抑制し、厚労省が政策立案を行ううえで支障になっている勤務医不足を解消することが真の目的だろうと考えられます。
開業医のインセンティブを減らす重要性については先日、ある機会にお会いした技官の方が強調されていましたし、確かかなぁと思います。

財務省が医療費抑制に躍起になるのは、やはり財政再建の観点からでしょう。社会保障の金額は大きいですから、たった数パーセント伸びてもらっても額は膨大になります。PBすら達成できていない、増税もなかなか推し進められない今の状態で、どうぞどうぞと支出を増やすというのはあまり考えにくいように思います。もっとも、公共事業等が削減されているのに対し、医療費に関しては削減ではなく、抑制ですけれどもね。もっとも現時点で医療機関は成り立ってませんから、これ以上抑制されると結果は目に見えていますが、打つ手はないと。増税すれば「増税したんだから公共事業増やして地方の格差是正しろ!」と叫ぶ人々が現れて幾分かは持っていかれますから、それを押さえ込める超カリスマ政治家(押さえ込めて、高支持率が得られる必要アリ)が現れない限り、医療費の分だけ増税すればいいということにはならんわけです。

日本のシステムは硬直していますからね。個人的には時間とコストばかり浪費する審議会制度をとっぱらって、政治家→官僚→業界というトップダウンにすればいいと思うのですが、そうなるとその責任を誰が負うかとか、果たして官僚に負わせてよいものかとか、そういう議論になってくるのでなかなか難しいものがあります。官僚も決してやりたくてそのポジションについているとは限りませんからね(というか大臣官房が決めているだけですが)。一企業に対する責任ならともかく、全国民への責任を負うというのはあまりに官僚の給料には見合わないでしょう。結果責任は負わせず、説明責任だけ負わせる形ならば引き受けてくれるかもしれませんが。

政治家にすべて負わせたらいいという話もありますが(企業の役員と社員の関係)、そうすると政治家が官僚をある程度コントロールできるようなシステムが必要です。ところが、現実を見ると政治家は官僚の助けなしには詳しいことを知ることが出来ません。場合によっては質問内容すら官僚に書かせている先生方もいると。まぁこんな状況では政治家が官僚を自由にコントロールできるわけがないわけで、しかも政治家と言っても一筋縄ではない。同じ党の中でも意見が割れてとんでもない方向へ議論がいってしまったりするわけです。どの政治家がガバナンスを握るのかということがイマイチ明確にならない。大臣という手はありますが、大臣一人ではどうしようもないほどたくさんの議案があります。

そうなると、やっぱり政治家は大枠を議論して、細かいことは官僚にある程度、権力と責任を担ってもらうしかない。では、現在、その細かいことを決めているのは誰か?というと大体30代〜40代前半の課長補佐クラスです。彼らの激務ぶりは相当なものがあって(具体的には政策立案や資料作りはもちろんのこと、議員レク、審議会の委員への根回し、若手官僚の監督と指導、他部署他省庁との協議、出先機関への説明等です)、非常に大変だなぁと感じさせられたわけです。彼ら個人に組織内の責任以上の重い責任をつけるのはあまりに酷というものです。したがって、やはり管理職である課長クラスや局長クラスが責任をもつべきだと思うのですね。

実際、こう説明すれば皆さんにもなんとなく分かっていただけると思いますが、中央省庁において課長というのはボスで、大学でいえば教室の教授に相当します。年齢層は40代〜50代前半ぐらいで教授よりは少し若いんですが。でも、実質ボスで、課という20〜30人からなるセクションを取り仕切っています。その下に筆頭補佐とはじめとする課長補佐が4、5人います。大学で言えば講師クラスといいましょうかね。研究室で講師クラスが大きなプロジェクトの統括を任せられているような感じで、課長補佐がいくつかの大きな案件を持っています。講師は統括も実験もするように、課長補佐は多少の雑用も統括、渉外もしなければなりません。その下に係長や主査などの実働部隊がいるわけです。大学でいえばポスドクのようなものでしょうか。その下はいる場合といない場合がありますが、ノンキャリや若手キャリアの係員がいて雑用や補助業務を行います。

一方、課長より上をみると複数の教授をまとめる学部長のような存在が局長です。審議官、部長や局長以上は指定職といって給与体系が課長までとは異なり、車がついたり、個室が与えられます。完全な役員クラスの管理職です。もう少し詳しく説明すると、(局次長級)審議官ー局長ー省名審議官ー事務次官という階級になっています。省名審議官というのは、局次長級審議官とよく混同されるのですが、厚生労働審議官のように省名が上につくもので、通常は1人か2人だけ置かれます。局次長級審議官(通常、審議官とだけ呼ばれる)が局長より下なのに対して、省名審議官は事務次官に次ぐナンバー2のポストです。局長が学部長だとすれば、局次長級審議官は副学部長、省名審議官は副学長、事務次官は学長ということで一つの大学たる省が成り立っています。

で、課長はボスなんで色々と物事を決めているわけですが、局長はその取りまとめ役ということで普段はあまり顔を出しません。与党の大物議員への説明、審議会の出席などが主な業務になるんでしょうかね。局長は普段は何も言わず、課長へも状況を聞きに来るぐらいですが、何かをやり始めるとかなり強い力を持っています。ただし、局長クラスになると普段は政策立案をしないため、関心はどうしても人事にいきがちです。まぁ局長以上の人事は内閣の承認が必要というのもあるんですけど。

ということで、中央省庁というのは基本的に各課の課長を中心に回っています。トップダウンにする替わりにこのあたりに政策の責任を負わせるべきなのかもしれませんね。課長の給料は決して高くはないですが。