こそっとお教えします

このブログでは色々な意見発信をしています。まぁ、的外れなものも多いかもしれませんし、評価は皆さんにお任せしますが、自分にとって一番ここで主張したいことは「地方から都市へ」ということです。「地方を残すと色々まずいことが起きる」ということは何度となくデータを用いながら主張してきました。たとえば、今話題の道路特定財源。農業中心の地方経済が実は道路にかなり依存しており、なかなか脱公共事業が進まないことを指摘しました。日本の農業は血のにじむような努力はしているが結局極めて効率が悪いことを指摘しました。中国からの食品輸入が悪ではないことを証明し、日本の農業をそこまでして守る必要は低いことを示しました。地方の車生活がいかにエネルギー効率が悪いかということも説明しました。道州制の必要性を強調し、県より大きな単位で都市開発をしていくことの妥当性を指摘しました。お気づきの方は多いでしょうが、いずれも、地方から都会へもっと人を呼び寄せるための根拠作りです。が、そもそも、なぜそれを私が強く主張するのか、そのホンネは皆さんにはあまりお教えしていません。
その理由は私が医学部であることと大きく関係します。今ご存知のように日本の医療は崩壊秒読み段階です。もう私は崩壊は避けられないと思ってますが、たとえ焼け野原になっても医療自体は存続するわけです。私も将来それで飯を食っていかねばなりません。

食堂で色々飯を食べながら同級生と話していて感じることは、私もそうですがとにかく都会指向が強いことです。研修病院で理想は都市部の大病院、地方は行ってもいいが6ヶ月か1年だけ、という人がほとんどです。そりゃそうですよね。都会の便利さは地方の比較になりません。学会や研究会もほとんどが大阪や東京などの大都市で開催されます。大病院なら指導医もたくさんいます。勉強もできるし、便利だし、面倒も見てもらえる。やっぱり都会の方がいいのです。

で、何が将来働く上で一番嫌かということを何回か議論したことがあります。まぁ、統計を取ったわけではありませんが、そのときによく出てきたのは、医療裁判と一人医長です。裁判は長いしうっとうしいし、感情的しこりも残る、場合によっては鬱になるかもしれません。マスコミもうるさい。一生懸命やったのになぜ、という疑問を抱えることになるので、現場を知らない我々でも考えるだけで嫌です。憲法で裁判を受ける権利が保障されている以上、止められないのは分かってますが、嫌で嫌でしょうがない。憲法をさっさと改正してもらいたいぐらいです。

もう一つは一人医長です。一人医長は地方で24時間365日待機状態をしなければなりません。全責任が一人にのしかかってきます。たとえ普段どれだけ暇であっても、ある日の夜中3時や4時の寝ているときに突然救急車がやってくるのは嫌です。しかも、自分で対処しきれないことや迷うことがあっても周りにその場で相談できるヘルプはいません。転医させることはできますが、救急車で遠くまで運ぶことになりますから救命率は下がりますし、患者の家族には結局無責任のように見えるはずなので後が不安です(実際裁判や刑事事件になることも多い)。さらに一人医長は地域医療の要。簡単には辞められないし、休みも取りにくい。想像でモノを言っている事は認めますが、避けるのならできる限り避けたいというのが我々の考えです。医系技官でも一人医長が嫌になって官僚になった方もいらっしゃいます。

では、どうしたら一人医長は防げるのか・・・一つは医師を増やして地方でも3人以上の常勤にすることです。しかし、医師不足の時代にそんなことをしている余裕はありませんし、それをすれば国民の皆さんに払ってもらう国民健康保険料は1.5倍ぐらいになるでしょう。守口市の例では年収280万円の4人家族で健康保険料80万円になります。それでもいいというのなら、今からでも遅くはありません。医学部定員を1.5倍にしてもいいでしょう。まぁ、でも国民の認識としては「医療費は高い」のですから、これ以上の医師を増やすことはできません。では、どうするか。そもそも一人医長を無くしてしまえばいいのです。その地域には一切医療を提供せず遠方の3人以上の常勤がいる地域まで通院してもらうか、移住してもらわねばなりません。前者は地方の大部分を占める高齢者に大きな負担をかけることになり、医療難民が発生して皆保険が前提とする全国一律の医療提供に著しく反することになりますから、当然選択肢は後者しかありません。ドクターヘリも検討はされていますが、何かあるとすぐ落ちるヘリに乗りたがる医師がどれだけいるのか疑問符がつきますし、そもそもヘリの輸送能力には限界があります。ということで地方の、特に一人医長エリアの住民にはどんどんと都会へ移住してもらうことが一人医長をなくす唯一の道です。住民が地方中核都市や地方中心都市に集まればその都市は人口密度が増えるので、今までにはなかったような大型店や便利な店もできるでしょう。公共交通も発展します。生活がしやすくなれば、医師の地方嫌いも多少マシになることは十分予想できます。地方中心都市でも一人医長だったところは常勤医が増えるでしょうし、それによって交代制が実施でき、負担もある程度軽減することができます。もし、それでも医師が増えないのなら集約化が不十分だということです。

「地方をなくせ」と私が主張する隠れた理由は実は一人医長を無くしたいからなのだということは分かっていただけたでしょうか。もちろん、無駄な道路に行くお金を社会保障に回したいという意図もあります。エネルギー効率の良い鉄道の利用率を高めたいという意図もあります。でも、個人的にこの意見を主張し続けている原動力は、「一人医長をなくすこと」です。多くの医学生がとても嫌だと考えている制度を無くすことは医学生の私の使命です。時間はかかるし抵抗も大きいでしょうが、日本のスリム化と更なる効率化、そして持続可能な医療制度のためにもこれはやらなければならないことなのです。

注意:今までブログでは地方中核都市という言い方をしてきましたが、正確には地方中核都市及び地方中心都市のことを指しています。これは四全総における中核都市の定義が三大都市圏を除く地域で人口で30万人と地方の中でも県庁所在地レベルの相当大きな都市を指すためです。地方中核都市は全国で政令指定都市以外では40程度しかありません(総務省指定中核市は35市)。兵庫県では姫路ぐらいです。一方で、地方中心都市は人口が10万以上(それ以下は地方中小都市)。実際には人口が10万以上あればある程度大きな町になるため、集約化は地方中核都市又は地方中心都市に向けて行うべきです。なお、一人医長の割合が多い地方都市というのはおおむね地方中小都市及び小さめの地方中心都市のようです。