中国への妬み

中国の胡錦濤国家主席の来日で、チベット問題やギョーザの問題、パンダの問題が改めて注目を浴びているわけですが、最近の世論を見て思うのは、チベットの問題にせよパンダの問題にせよその問題自体に対しては大した考えを持っていないにもかかわらず、「中国が嫌い」という考えから、チベットを応援してデモ行進をしたり、パンダ不要論を唱えている人が多いのではないかということです。

たとえばチベットの問題。中国とチベットの関係に限らず、一般的に自立心の強い少数民族が住んでいる地域では、所属する国家と少数民族の間で独立紛争が起こります。例を挙げるならロシアとチェチェンの関係であったり、トルコやイラククルドの関係であったり、セルビアコソボの関係であったりするわけです。当然、国家側としては独立されて領土や資源を奪われては困りますから(日本でいきなり「九州が独立します」なんて言われたら皆黙ってはいないでしょう)、独立運動に対しては軍事力を含むあらゆる手段を使って弾圧を行うことになり、人権侵害が日常的に発生しています。
さて、今回のチベットの問題。デモの参加者やブログでフリー・チベットを叫んでいる全ての人に問いたい。フリー・チベットと言うのは結構だが、では、あなた方は弾圧されているチェチェンクルドコソボに対しても同じように「フリー・チェチェン」とか「フリー・コソボ」と言ってきたのか?たとえば日本で九州や関西が独立したいといえば、「フリー・キュウシュウ」と言うのか?
おそらく大半の人の答えはNOでしょう。じゃあ、なぜチベットだけ特別扱いするのか?
屁理屈を言わない正直な人ならこう答えるでしょう。「中国が嫌いだから」

これがおそらく実際のところだと思います。でなければチベットの問題が日本国内でここまで大きくなるはずがありません。チェチェンコソボの独立紛争ではおそらくチベットよりはるかに多い犠牲者が出ています。人権抑圧を真剣に考えているならチベットの前にチェチェンコソボに目が行くはずです。にもかかわらず、チベットだけが注目されるのは、もちろん地理的に日本と近いというのもあるでしょうが、やはり日本の隣で急速に成長しつつある超大国中国への反発と嫌悪というものが大きな要素であるといえると思います。実際、チベット問題でイデオロギー的に矛盾する(右翼=権威主義国家主義だから)としか思えない活動をしている右翼連中は、何を訴えていたかというと「反共、反中、チベット支援」でした。また、長野でのデモ行動ではチベット側の参加者からチベットでの人権侵害とは全く関係のない「毒ギョーザ、毒ギョーザ」と叫ぶ声がしていたといいます。まさに「反中国」という意識が彼らの根底にあることをよく物語っています。

では、なぜ中国は嫌われているのか。いくつか理由を挙げてみたいと思います。

  1. 中華思想(中国が世界の中心であるという中国の伝統な考え)が強いから
  2. 一般的に中国人の性格がカネや利益にがめついから
  3. 反日教育等によって日本に嫌悪感を持っている人が多いから
  4. 改革開放を進めているとはいえ、人民に対して強圧的な支配を続けている社会主義国家だから
  5. すぐに死刑にしたり、残酷な刑罰を行っているから、独立運動に弾圧を加えているから
  6. 日清戦争以後、日本が植民地化して支配していたのに第二次世界大戦戦勝国になり、靖国参拝中止など日本に様々な要求をしているから
  7. 中国の軍事費が二桁台で成長し、軍備の強化が著しいから。また、互いに仮想敵国だから
  8. 潜水艦が領海侵犯したり、東シナ海で中国機が偵察や監視活動を行っているから
  9. 尖閣諸島問題で日本と領土争いをしたり、東シナ海のガス田を勝手に採掘しているから
  10. 事実上独立している台湾の独立を認めず、地域の政情を不安定にさせているから
  11. 「豊かになれるものから豊かになれ」という訒小平先富論を実行した結果、中国国内での格差(農村と都市)が拡大しているから
  12. グローバル化の中で世界の工場として成長し、日本国内から仕事を奪って平成不況やデフレを深刻化させたから
  13. 急速な成長による資源の大量消費により、原油や鉄鋼などの価格が上昇したり、日本が買い負けすることが多くなったから
  14. 模倣品により日本のブランドや知的財産権が侵害されているから
  15. 急速な成長と環境に対する無策で猛烈な大気汚染が発生し、それが偏西風で流され、日本でスモッグや花粉症の増加をもたらしている可能性があるから
  16. 食品に強毒性のある農薬が残留するなど、製品の質全体に信用がおけないから
  17. 帝国主義的な大国が一般的に嫌いだから
  18. 日本は成長が止まっているのに隣で急速に成長されるのが鬱陶しい

1〜3:中国民族や人民の意識に対する不満、4〜10:中国の国家としての外交姿勢や内政に対する不満、11〜16:改革開放や経済成長に伴う問題に対する不満、17〜18:日本側の妬みともいえる勝手な不満、に分別してみました。

1については、「中華思想を捨てろ」という要求自体が難しいと思います。過去の歴史を振り返ってみると、一部の短い期間を除けば、間違いなく中国は過去何千年以上にわたってアジアや世界の中心であったわけで、その文化の豊かさで右に出る国はほとんどありません。日本や朝鮮は中国から文字を輸入しましたし、医学や土木技術、芸術品にしても江戸時代までは中国からの影響を強く受けていました。また、日本が中国の属国でなかった期間の方が珍しい。中国はいつの時代も圧倒的な文化力と規模でアジアの中心であり続けました。彼らが中華思想を持つことは自然なことですし、今後は日本に替わって中国がアジアの中心となることはほぼ間違いないと見られていますから、中華思想は実態に合ったものに戻ります。これについてはむしろ19世紀から20世紀半ばまでが例外だったわけで、諦めるしかないと思います。歴史の違いです。

続きは明日にします。