機械だって故障する

外科学会会長発言の続きなんですが、「機械的に扱う」という言葉がここ数日どうも僕の中で引っかかっています。多くの一般人(特に主婦とか文系人とか)は、機械は普通は故障しないものだと思い込んでいるフシがあると思いますが、決してそんなことはありません。大量生産しても不良品はやっぱり出ますし、正しい使い方をしていても一定確率で故障や不具合は発生します。開発段階では非常に複雑な仕事をするので、今回の三菱東京UFJのトラブルのように考慮しなければならないことを見落とすこともあります。だからこそ、QCをやったり、メーカー保証があるわけで、もし顧客に落ち度がなかったり、よく分からない理由で故障したときは代替品を手配してくれる仕組みになっているのです。

医療の不確実性もそうですが、機械にもやはり故障はつき物ですし、それは統計的なデータで評価されていることからも分かるようにやっぱり不確実なものです。修理だって機械的にできるものばかりとは限りません。医療における鑑別診断のように、フローチャートを見ながら解決できることも多いですが、やっぱりよく分からないケースというものも多い。この辺は簡単なものでも機械やシステムを開発してみるという作業をしたことがない人にはなかなか理解しづらいかもしれませんが。

何か製品に大きな不良やバグが出るたびに、マスコミが「そんなことにも気付かなかったのか」と後出しじゃんけんで騒ぎ立てるのを見ては、開発者の苦労への無理解さを感じさせられます。昔の単純なシステムならともかく、現代の高度に複雑化したシステムの開発ではどれだけ注意力を払っていても、一定確率でそういう事象は起こるのです。だから、それを防ぐためにダブルチェック、トリプルチェックを行ったりして冗長性を増す、何か起こっても最悪の事態に進まないようにするフェイルセーフシステム(パソコンで言えば例外処理なんかもそうでしょうか)を導入する、などといったことが行われてきました。

日本の機械メーカーは優秀な会社が多く、あまり故障の機会に出くわすということがないためか、一般人では本当に「機械=故障しない」と考えている人が多いし、その過信からか不適切な使い方を平気で続けたり、メンテナンスを怠ったりというケースがよく見られます。このように機械の不確実性や故障に対する無理解が、どれだけ悲惨な事故を生んできたかということを考えると、やはりこの状態を放置しておくのはまずいんじゃないかといつも思います。


ちなみに、故障の中には原因が分かっていても防ぎようのないものもあります。たとえば、変電所の電気が吹っ飛んだ、何かと思うと、中にヘビが侵入して短絡したとか、そういう事例は頻繁とは言いませんが、それなりにあることです。ネズミよけは設置しているところもありますが、まさかヘビが侵入するとは思わないですし、まさにこういうことは「仕方がないこと」の一つです。

先日も高速神戸で大阪方面の電車を待っていると、新開地行きの特急(7000系)が発車したとたん、床下から大きな火花が飛び、「バコーン」という断流器がいつもより大きな音で鳴り響きました。「短絡した」と思った次の瞬間、加速ができなくなり、非常ブレーキがかかっていましたが、その後しばらく発車する様子はありませんでした。最終的にどうなったかは分からないのですが、大幅に遅れたという情報は聞かないので、おそらく元に戻ったのか、当該車両のユニット開放でもしてやり過ごしたのでしょう。火花が見えたことからして抵抗器周辺で短絡があったのではとは思いますが、電車もやっぱり故障します。JR東日本車両故障に備えて新型車両の制御系統を2重化するなどの対策を取っています。

当たり前ではありますが、機械も故障するのです。