後期高齢者医療制度のどこが問題か

野党が後期高齢者医療制度廃止法案なるものを参院で可決したようですが、衆院では可決されないのでまったくもって無意味ですね。少子高齢化が年々進展する中で、高齢化率が低かった時代を前提としている老健制度にもどして何の利益があるのでしょうか。
さて、後期高齢者医療制度に関して厚労省が保険料の実態調査をしました。詳細はHPにまだアップされていないのでよく分からないのですが、新聞記事を見る限り予想通りの結果です。

  • 大都市部ほど保険料が上がる
  • 低所得者ほど保険料が上がる

これが後期高齢者医療制度について一般的にいえることだと思います。なぜでしょうか。カラクリは簡単です。

まず、新聞情報によると厚労省の実態調査は国民健康保険という自営業者や退職者を対象とした健康保険制度(正確に言えば、それに老人保健制度を加えたもの)と後期高齢者医療制度を比較しています。国民健康保険(+老人保健制度)は市町村ごとの運営で、被保険者が納める保険料(保険税)や国などからの受入金に加え、市町村が独自に税金を投入して制度を運営しています。当然のことながら、国保に投入できる税金の額は市町村の財政状態に依存します。企業や住民の数も多く、高齢化もそこまで進んでいない大都市では財政状態が比較的良好なので、国保に多くの税金を投入することが出来ます。よって被保険者の保険料は安くなります。逆に財政が厳しく、高齢化が進展している地方都市では保険料は高くなる傾向があります。
しかし、後期高齢者医療制度は運営が都道府県単位です。財政状態のよい市町村も財政状態の悪い市町村もごちゃ混ぜです。大都市は財政状態の悪い地方の保険財源も肩代わりしなければなりません。よって大都市では保険料が上がる傾向があるのです。

さらに、国民健康保険制度では保険料の算定にいわゆる4方式とよばれるものを採用している市町村が全体の80%を占めています(加入者数ベースでは46%)」。4方式とは、世帯の年収に応じて変わる「所得割」、持っている固定資産に応じて変わる「資産割」、全世帯一律に負担する「平等割」、世帯の人数に応じて負担する「均等割」を合計して世帯の保険料が決定されます。一方、後期高齢者医療制度ではこれまで世帯ごとにかかっていた保険料は個人ごとに変更され、保険料は本人の所得に応じて変わる「所得割」と全員が一律に負担する「平等割」の合計額となりました。

厚労省は「応能力負担としては所得と資産の両方で計算していたものを、所得のみで計算するようになったので、従来の4方式国保に比べて低所得者はより保険料が低く、高所得者はより保険料が高くなる」と説明していました。確かにその通りで、今回も4方式国保を導入していた地域では保険料は低所得者ほど減り、高所得者ほど増えるという調査結果が出ています。しかし、4方式を導入している自治体は主に地方の郡部に多く、大都市では資産割がない3方式や、後期高齢者医療制度と同じ所得割と均等割の2方式を導入しているところも多く存在します。2方式や3方式を導入している自治体では、一般的に所得割の率が高く、均等割や平等割といった応益割の率が低く抑えられています。したがって、夫婦の低所得年金受給者は相対的に均等割の分が増えるわ、均等割で安く済んでいたのが個人単位の保険料になって増えるわで二重に保険料が増加するのです。一方で高所得者は所得割の率がひくくなったために安くなった人が多いのではないでしょうか。

朝日新聞が5月5日に出した記事からの改変ですが、世帯収入153万以下(所得割なし、応益割7割減免)の低所得年金受給夫婦についての試算結果は次のようになりました。(保険料の計算については市町村により異なります。あくまで一例です)

  A所得割 B資産割 C均等割(1人分) D平等割 保険料算出方法 保険料額
国保4方式 7.36% 19000円 23000円 24000円 (C×2+D)×0.3+D 40000円
国保3方式 11.02% 27000円 26000円 (C×2+D)×0.3 24100円
国保2方式 9.62% 34000円 C×2×0.3 20500円
後期高齢者 7.65% 41500円 C×2×0.3 25000円

では後期高齢者医療制度をどう変えていけばいいのでしょうか。問題点はいくつかあると思います。

  • 高齢者の中には多額の現預金や金融資産を抱えている人がいて、こういった資産に応じて保険料を増やす仕組みがない(国保の資産割も固定資産だけが基準であり、金融資産については手付かずです)
  • 低所得低資産者に対する減免措置が不十分
  • 後期高齢者の親を扶養したら保険料が増える仕組みは、核家族化と少子化を加速させるもので、扶養したら保険料が減る仕組みを作るべき

天引き問題など他にも色々ありますが、この3つが最も重大なものだと思います。天引きは高齢者を無保険者にしないためにも必要だとは思うのですが。保険料を適切な額にした上で、融資制度を設ければ解決できる話のように思えます。

後期高齢者医療制度は今後こうあるべきと私は考えています。

  • 金融資産に応じて負担が増える新たな資産割を設けるべき
  • その分で低所得者の負担軽減を充実させるべき
  • 減免措置の基準を世帯所得ではなく、同居する後期高齢者のみの所得で決めるべき