三面等価の原則を知ってほしい

先日の公衆衛生の発表会で後期高齢者医療制度のグループに対しての質問で、私が「この制度に関する問題の核心は、結局高齢者の医療費に関して現役世代と高齢者世代の間で負担割合をどうしていくかということなんですよ」と指摘したところ、その班のメンバーと議論になりました。彼らは「現役も高齢者もみんなが負担すべきです」というので、じゃあ「消費税の増税ということですか?」と確認したところ、彼らは「まずは現役も高齢者でもないところから徴収すべきです。具体的には企業の増税です」と返答してきました。私がすかさず「企業増税したら給料も減りますけど?」と言うと、向こうは黙ってしまいました。

この問答から分かる重要な点は、経済を考える上では企業vs庶民という対立の構図がそもそも間違いであること、少し難しい言葉を使えば三面等価の原則を知らないか、無視している人が多すぎるということです(でも三面等価は中学か高校で習いますよね)。生産面のGDPと分配面のGDP、支出面のGDPは等価であるという原則です(ただし、在庫調整や外部不経済等を勘案すると三面等価は厳密には成り立たない)。この原則を知っていれば上のようなミスリードを防ぐことが出来ます。すなわち、「企業の付加価値=家計の収入+法人税」(生産面のGDP=分配面のGDP)、「家計の収入=消費+貯蓄+家計への税(主に所得税)」、よって「企業の付加価値=消費+貯蓄+租税」という等式を知っていれば、法人税を増やせば、生産面のGDP=分配面のGDPより家計へ分配されるお金が減り、結果として家計の負担が増えるということは明確です。

この法則を知らなくても、企業は商売で得た利益の中から従業員の給料や銀行への利子、法人税、株主への配当及び内部留保を捻出しているということを知っていれば、法人税を増やせば利益そのものが増えない限り、残りのどれかが減るということは明確です。もし、従業員の給料を減らさず株主の分配金を減らせば、企業のROEなどが減少しますから分配金が減るだけでなく株価も低迷します。株式を持っている人間は金持ちだから関係ないという考えを持っている人も多いようですが、その考えは誤っています。公的年金や厚生年金など多くの年金資金が国内株式に投資しています。最近は日本版401Kも盛んです。株価の低迷は高齢者の将来の生計を直撃するということは忘れてはなりません。
さらに日本の法人税率は世界的に見ても高い。これ以上高くすれば資金や企業が海外へ逃げる可能性もある。経済への影響は計り知れません。

結局は医療費は医療を使う国民が負担しなければならないのです。当たり前のことですが。