ストックとフローの区別をしよう

最近、医療費抑制政策等、国の財政問題の話題が多いのですが、未だにストックとフローをごちゃ混ぜにして議論している人が多いことに驚かされます。

典型的な例を挙げれば、年間2200億円社会保障費を抑制して5年で1兆1000億円伸びを削減するという政策があります。骨太で決まったやつですね。これはあくまで単年度フローの伸びを5年かけて1兆1000億削減するということです。実際は1年目は2200億円削減、2年目は前年の2200億円+新規2200億円の4400億円、3年目は6600億円、4年目は8800億円、5年目は1兆1000億円削減されますので、医療界を含めて社会保障関連業界が取り損ねたストックは3兆3000億円になります。本来の状態から比べて3兆円以上も取り損ねて何の手当てもなければ、社会保障が崩壊するのは当たり前です。しかも削減後も1兆1000億の削減は続くわけですから、これを10年続ければ、3兆3000億+1兆1000億×5年=8兆8000億円の削減になります。

一方で、霞ヶ関埋蔵金のうち取り崩し可能な数十兆円を取り崩せば、財政赤字は一気に解決とか社会保障費に回せとか言っている人もいるのですが、霞ヶ関埋蔵金は基本的にストックです。これを単年度会計だからかは分かりませんが、フローと勘違いしている人が多いんですね。日本の国債発行残高(ストックの債務)は500兆円以上あるのですから、霞ヶ関埋蔵金をすべて国債償還に当てたとしても国債問題の解決にはなりません。例えば埋蔵金30兆円を使って社会保障費抑制政策をチャラにしようとしても、30年足らずで埋蔵金は尽きてしまいます。そもそも財務省埋蔵金社会保障費にまわすなんてことは考えないとは思いますけどね。
財政赤字に直接投入するとしても、プライマリーバランスを一時的に達成することは可能でしょうが、それも数年で埋蔵金は尽きてしまう計算になります。

(個人的には財政赤字という言葉も、フローの赤字を指すのかストックの赤字を指すのか明確にして欲しいものなのだが・・・)

あ、それと補足するのを忘れていましたが日本におけるプライマリーバランスというのは「国債などの借金を除いた歳入から過去の借金の元利払い(償還+利払い)を除く歳出を引き算したもの」という風に定義されます。これは大雑把に企業会計に例えれば営業利益にあたるもので、プライマリーバランスが均衡しても借金は利払い分だけ増え続けます。ただし、名目の長期金利が名目GDP成長率と同じであれば(ドーマー条件)、国債残高対GDP比は一定になります。
なお、海外ではプライマリーバランスの定義は「国債を除いた歳入から過去の借金の償還を除く歳出を引き算したもの」と定義されるため(企業会計で言えば経常利益に相当する)、プライマリーバランスの均衡を達成するためには利払い分の歳出削減もしなければなりません。日本のPB均衡の条件は甘いのです。その条件さえクリアできないというのであれば、日本の財政はお先真っ暗であることは言うまでもありません。

まぁ、それはともかく、フローとストックを区別しないととんでもないミスリードをしてしまうよ、ということは警告しておきます。