医師数を急増させるなら

尾辻元厚労大臣が日経メディカルで「すべての医者に飯を食わす必要はない」と言って、定員の大幅増を訴えているようですが、すなわち、これは医者の供給原理に市場原理を導入せよといっているのに等しいわけですね。となれば、需要側にも市場原理を導入しない限り、供給側が市場原理で需要側が社会主義といういびつなシステムになるのは明白で、さらに医療の崩壊を加速させることとなるでしょう。仮に尾辻氏の案を受け入れるとすれば、システム保護のために医師法19条の削除と国民皆制度の解体と「金がないヤツは死ね」という医療をセットにする必要があります(要するにアメリカ型の医療制度)。そうでなければ需給バランスの崩れがいずれ制御できなくなり、システムは崩壊してしまうでしょう(結局、インプラントとかの自由診療がないとやっていけない、今の歯科医師の世界を想像していただければ分かると思いますが。こういう自由診療が歯科だけでなく、すべての医療において導入されるということです。「自由診療専門!」ってのも乱立するようになるでしょうね)。

まぁ、そういう発言が飛び出すこと自体、結局尾辻氏は市場原理主義者で、皆保険を維持しようと思っていないことは明らかですね(実際に小泉政権下で厚労大臣だったときは混合診療解禁に賛成の立場をとっている)。それか、2つが容易に両立されると考えているバカか。政治家が考えるように物事はうまくいかないということは知っておいたほうがいいと思います。

ともかく日本では400人も毎年増やすのは不可能です。技術を教える側も不足して大変ですからね。ここは日本の枠組みですべてを捉えずに、逆輸入のようなグローバル手段を考えるのがベターかと思います。具体的には医学部定員を現在の1.2倍ぐらいに増やした上で、1、2年次に優秀な成績を収めた学生2割程度をアメリカやヨーロッパ、オーストラリア等、海外の医学部に“輸出”し、授業や臨床実習、臨床研修をすべて海外で行わせると(もちろん、日本の医学用語の勉強もする前提で)。そして、彼らを初期研修終了後に再度“逆輸入”し、アジア・メディカルツーリズムの推進者として海外からの患者受け入れに当たらせたり、高度専門医療に従事させる。一方で残りの学生については従来よりプライマリケアに近い教育内容にした上で、日本で教育する。あるいは、初期臨床研修を海外でさせるという手もあるでしょう。
また、中国医科大学では一学年数十名の規模からなる日本語クラスがあり、純粋に中国から日本に医師を輸入することも可能です(研究室で複数の中国医科大出身の中国人と一緒だったので、その辺の事情には少し詳しいです)。グローバル化している社会なのですから、すべてを日本で完結させる必要はないはずです。というか、そういう発想がないと現場の医師に無用な負担を強いるだけでしょう。

厚労省案にしてもトンデモな議連案にしても、少なくとも我々の5年下〜20年下ぐらいまでは定員が増える計算なので、「医師増員に伴う現場への負担」というのは、我々の世代に一番大きく影響してくることになります。正直、医師が増えて臨床現場に出だした頃に現場を去る医師が何を言っても、単なる好き勝手としか思えませんがね。
かなり本音が出てますが。