読売の意見「医師の強制計画配置」

恐れていたというか、いずれこうなるだろうと予想していた動きが出てきました。
医師を全国に計画配置、医療改革で読売新聞社提言
読売新聞は編集委員が、厚労省の各種委員会の委員(メディア代表)を務めるなど、医療行政に対して非常に密接な関係を持っている新聞なのですが、その新聞がここまではっきり医師不足対策について総合的な意見を述べる、というのは前例がないのではと思います。厚労省も完全無視というわけにはいかないでしょう。

彼らの意見は「医師を計画的かつ強制的に配置する」というものです。すなわち、各科の定員を地域ごとに定め、たとえば皮膚科に人が殺到して内科や外科がいない、あるいは都市の大病院に研修医が集中して地方にほとんどいない、というような状態を「定員」の力で防ごうというものです。まぁ、海外ではほとんどの国で似たような制度があるわけで(アメリカなどは専門医資格にも厳しい定員があるようです)、今まで日本だけそれをやってこなかったというのが異常といえば異常なのですが、医師側にしてみれば「職業選択の自由」がおそらく合憲的に制限されるわけで、自由度は狭まります。おそらく今の病院が嫌で辞めたくても、あるいは今の科が自分に向いていないから別の科に行こうとしても、都市の定員枠がいっぱいで地方に行かざるを得ないという可能性も出てくるでしょう。医学生からは相当な反発があるでしょうね。最近は内科外科より、美容整形でがっつり儲けたると豪語している学生や地方は絶対イヤという食わず嫌いな人も結構いますから。

私は大まかなコンセプトとしては読売の提言でも構わないと思います。読売の提言には医療費を増やすと明確に書かれていますし、消費税も10%まで増税すると提言しています。要するに、これは医師の自由度を奪う代わりに医療費が増えるというバーター取引です。

そもそも患者-病院間の「医療提供市場」が診療報酬というプライスリストによって共産主義的な制度を採っているにもかかわらず、病院-医師間の「医師供給市場」では医局人事という共産主義的メカニズムが崩壊して以降、どちらかというと市場主義的な制度になってるという、システム上のアンバランスから昨今の医師偏在の問題が生じているわけです。よって、私が常々言ってきた事は、このアンバランスを解消する、すなわち、「医療提供市場」を混合診療の導入によって市場主義化していくか、医師供給市場を共産主義化する、すなわち医局に代わる共産主義的な医師強制配置システムを構築するか、の2つの方法によってこれを解消すべきであるということです。

私は2つのうちどちらを選ぶかは国民の選択だ、と考えていて、個人的には医療技術の発展につながることが期待される、混合診療導入による市場主義化に賛成しているわけですが、読売の唱える共産主義化による解決法もありだと思います。

問題点としては、「各科・各地域の適切な人数とは何ぞや」というところで相当もめることが予想されます。今までより減らされることが確実な都市や一部マイナー科からすれば、減少を最小限に食い止めるために必死になるでしょうし、医師が欲しくて仕方がない地方は必死で自地域の定員を増やそうと国に働きかけるでしょう。今までの「足りないところに継ぎはぎする」ということを前提とした行政システムや人員配置ではこの問題を解決するのは不可能です。「我田引医師」を防止するためには国会議員と対峙できるよう、それなりの官僚機構の強化、口利き監視システムの構築が必要になります(むしろそれをしないと、このシステムはすぐに崩壊するでしょう)。決してこのやり方は容易ではないし、共産主義システムにありがちな「巨大な非効率」をもたらす可能性があるということを認識する必要があります。

そこまで読売がちゃんと認知した上で、この提言を出しているのかは不明ですが。

【以下、個人的雑感】
読売の提案は、新医師臨床研修制度で「白い巨塔」という医師の官僚システムを破壊し、半市場主義に移行しようとしたものの、結局いろいろ阻害要因があってあんまりうまくいかない感じなので、さっさと市場主義化をあきらめて、代わりに官僚システムの本家本元である国が、新たな「黒い巨塔」(注:黒い=スーツ)を構築しろというものなんですよね。はたから見てるとトンデモ感が否めないのですが、そこまで官僚システムが好きか?っていうのが私の正直な感想です。

まぁ、もとはといえば、「白い巨塔」という内部の閉鎖的な官僚システムが医療事故を隠したり、再発防止に消極的であったがゆえに、国民の強い反発を買って崩壊させられたわけなので、自業自得といえば自業自得なんですが。

官僚システムは時と場合によっては必要ですが、世の中官僚システムばっかりでも困るでしょう。
広い視野を持っている人はよく言います。医師、官僚、マスコミの文化はどれも似たりよったりだと。官僚システムの中で育まれ、官僚システムを好むという点でね。