本当に恥ずかしいのは「風邪薬で風邪が治る」と思っていること

中川事件の続編ですが、やむを得ない薬の副作用は全然恥ずべきこではありません。「運が悪かった」「服用の仕方を間違えました」で済む話です。あれで日本のイメージを変わるなどと論じる海外メディアがいるとすれば、そいつらは最も無能で、どうしようもない連中なのですから無視しておけばいいのです。たかが一人の大臣の一場面をもってして、1億人以上いる日本人を判断できないのは数秒考えたら分かる話ですから。

それよりも、医学生の立場からすれば、日本が最も恥ずべきことは、中川氏を含めて「風邪薬で風邪は治る」だとか「風邪には抗生物質が必要」とか、あるいは「薬は増やせば治りが早く治る」と考えている国民が未だに大多数いるという惨めな現実です。

風邪の原因の90%はライノウイルスやアデノウイルス等ウイルスによるもので、その場合、抗生物質は効きません(二次的に細菌感染を起こした場合は処方することはありますが)。それどころか、不必要な抗菌薬の投与は耐性菌を増やすリスクにもなります。いまや大半の先進国では風邪に抗生物質を処方しないことは常識中の常識です。「帰って暖かくしてしばらく寝てたら治る」と対応するのが当たり前です。
ところが日本では、つい最近まで医師の中には「風邪にはとりあえず抗生物質」を出す先生がいっぱいいましたし、患者さんにしても未だに風邪で抗生物質を要求する人は多い。最近ではようやく医療界では風邪に対する抗菌薬投与の危険が認識されはじめ、医師も本当は出したくないと思っているのですが、何も薬を処方しないと帰ってくれなかったり、口コミ掲示板に悪口を書かれるので、医師も悪いことだと思っていながら抗生物質が処方されているのが現実なのです。

では抗生物質以外の風邪薬なら風邪が治るのか・・・これまた大ウソです。昨今、風邪の治療に使われている風邪薬のほとんどは鼻水や咳といった、体の症状を抑えるだけのものが大抵であって、風邪の治療にはほとんど役に立たない。確かに39℃近い高熱時に体力温存や脱水防止の意味も含めて解熱剤を出すことや、咳があまりにひどくて睡眠を妨げる場合に咳止めを出すことには、一定の意義はあるかもしれません。しかし、解熱剤を服用するとかえって治りが遅くなったという報告もあります。つまり、風邪薬では風邪は治らないし、むしろ大抵の風邪では自然に任せるのが一番なのです。ところが、世間では「風邪薬が風邪を治す」と思っている人の多いこと、多いこと。まさに恥ずべきとはこのことです。

そして、中川大臣やかつて私自身も犯したミス、「薬は用量を増やせば早く効く」という誤解。確かに薬の中にはたくさん服用することで血中濃度が上がり、効きも強くなるものが多いですが、一方で薬の副作用や毒性が現れる確率も高くなります。その副作用で病状がさらに悪化するのなら、用量を増やす意味はありません。適切にコーディネートされた用量を守って使うことが重要です。薬物というのはクスリにもなりますが、毒にもなるのです。だから薬理学ではED50とかLD50という概念があるんですけどね。ともかく、「たくさん飲めば効くんだ」という考え方は自らを危険にさらしますし、そもそも対症療法にしかすぎない風邪治療では、用量を増やしたところで症状は緩和されるにしろ、風邪そのものが早く治るわけがありません。

正直、海外メディアにはどーでもいい大臣の記者会見よりは、こういう「恥ずべきニッポンの常識」というものを取り上げてもらいたいものですけどね。