院内事故調の絶対信頼性は本質的にありえない

国循が出した補助人工心臓の事例調査報告書について、調査委員長が「医療事故調”が議論されている中で、院内事故調査が十分に役割を果たすことができるかが注目されている」と指摘しているようです。センター長も「医療事故の調査は、犯人探しや責任追及であってはなりません。当事者が第三者を中心にして、調査・検証しないと、真相究明はできません」と発言しています。

原文を読んだわけではありませんが、記事などからおそらくこの文書自体は非常にクオリティの高いものなのであろう、ということは予測できます。しかし、たとえこの院内調査委員会がどれだけ素晴らしい文書を出したとしても、院内事故調査委員会の絶対的信頼性は構築しえません。その理由は簡単。「医者もいろいろ、病院もいろいろ」だからです。外部委員をたくさん登用する、遺族の要望を聞き入れる、などきちっとした対応の行える病院における院内事故調査は非常に有用ですが、そんな病院ばかりとは限りません。

調査委員長やセンター長の発言、医療界でその発言が大きく取り上げられている裏には、この調査書を以てして厚労省事故調より院内事故調の一般的な優位性を示そうとする医療界の意図があるように思いますが、私から言わせればチャンピオンデータをもってして何がいえるのか、というのが正直な感想です。

もちろん、逆に厚労省の想定する第三者機関による事故調査が院内事故調よりも絶対的に優れているというデータはありませんし、そんなデータは一万年かかっても出せないでしょう。

つまり、私が言いたいことは病院が数多く存在する日本に於いて「院内事故調と第三者機関の事故調のどちらが優れているか、という議論自体に意味がない」ということです。時と場合によって二つを使い分けるのが自然の摂理に則ったやり方であって、問題とすべきは「いかなる状況に於いては、院内事故調を優先し、いかなる状況に於いては第三者機関による調査を優先すべきか」ということです。

RCTでこの薬の方がいいと証明されたからといって、効かない患者にその薬を投与し続けますか?ということと同じだと思います。

さらに頭にとどめておくべきことは、二つの事故調がフルに活用された場合でも必ずしも遺族の納得が得られるとは限らないケースがあるということです。大抵、それが訴訟につながっていくわけですが、そういうケースについてもどういう抜け道を用意しておくか、ということも重要だろうと思います。