今後の運輸安全委員会の在り方についての提言

今回の事件を見ると、やはり事故調が当事者(加害側、被害側)双方を参加させ、情報公開を進めると同時に、一般過失事件への免責を導入することへの重要性が増したように思います。それを踏まえて、今後の運輸安全委員会の在り方を提言します。昨今の思慮の足りない世論では実現は難しいとは思いますが、中長期的な理想的目標としてこれを提示しておきたい。

  • すでに3条委員会たる運輸安全委員会に対して、警察に対する優先調査権を与える(警察は委員会の許可なく証拠の移動、押収はできない)
  • 運輸安全委員会の関わる事故に関しては、関係者の刑事免責を原則とし、事故調査中にテロや殺意があったなど、明らかな故意性が認められる場合は速やかに警察に捜査権限を譲り、刑事免責を解除する。関係各法についてはこれを整備する。
  • 事故調査報告書は刑事裁判の証拠として採用できないものとする。
  • 運輸安全委員会は常任の委員に加え、事故ごとに利害関係を持たない非常任委員を2〜5人程度加える。その際、非常任委員は国会同意人事とはしない
  • 運輸安全委員会における議事録はこれを報告書の公表と同時に原則公開する
  • 運輸安全委員会における会議には被害者側、加害者側から2名ずつをオブザーバとして参加させる。彼らには議事録が公開されるまでは守秘義務を課す(罰則付き)
  • 運輸安全委員会の委員が関係者(被害・加害両者とも)と接触する場合は、複数名による接触を原則とし、業務内容として記録を残す
  • 当然だが、関係者との金品授受に対して罰則を導入する。
  • 運輸安全委員会を100人規模の組織とする。
  • 将来的には5台以上が絡む自動車事故についても調査対象とする

上のポリシーをフレーズで表すと「情報公開、刑事免責、調査優先」の3語に尽きると思います。本来、運輸安全委員会の目的は原因究明と再発防止に向けての提言なのですが、それが現行法上では(警察の抵抗により)その立場と権限が中途半端であり、実質的に責任追及の役割を担ってしまっているために、このような事件が起きるのです。

新聞各社は「あってはならない」とこの事件を一蹴しますが、これはこの委員会の抱える構造的問題を鑑みると「あっても不思議ではない」事件です。JRの事故もダイヤ構造や組織の統治構造からみると、決して「あってはならない」事故ではなくて、「十分あり得る」事故でした。ところが、JR側は彼らが抱えていたこの構造的な問題から生ずる、頻回な遅れや事故を、「あってはならないもの」と考え、「運転士の問題である」として構造的問題に対する対策を怠った結果、数多くの予兆を見逃し、あの事故へとつながっていったのです。その点では、今回マスコミがとった論調と、当時JRがとった行動はまったく同種のものです。

事故対策の基本は「あってはならない」という考えを排除することから始まります。これもあるんじゃないか、これもありうるんじゃないか、という逸脱の可能性を認識し、もしそれが起こったとしても、システム的にそれをカバーする。ATSもそういうコンセプトで作られていますし、我々も常にその意識を持っておかねばなりません。そうでなければ、同じことをいつまでも繰り返すことになるでしょう。

まさに、「あってはならない」はあってはならない、のです。