横綱の本音

朝青龍の引退は予期はしていましたが、実際になってみるとさびしいものです。日本人どころか外国人からもなかなか横綱が出ない空白の時期を支えてきたという意味では、私は今までの不祥事を加味しても、朝青龍の功績は大きいと思います。

昨日のテレビで記者と朝青龍が飲食店で酒を飲みながらホンネを語っている様子が放映されていましたが、ぜひ色んな人に見てもらいたかった番組でした。朝青龍もまだ29歳なんですね。29歳の若者が酒に飲まれたんだと考えれば、今回の事件にしても決して不可解なものではありません。相撲に対する気力は衰えつつあったみたいですが、人間としては体力も気力も十分、一方で誤解や思い込みも十分。そういう年代ですよ。いわゆる血気盛んとでもいうんでしょうか。

そして、彼の語った本音は「品格、品格というけれど、僕はいつも人に合わせる必要はないと思うんだけどね」。まさにその通りだと思います。彼のいっていることは正しい。人間は一人ひとり違って当たり前ですから。色んな横綱がいていいと思います。でも、この若い世代にとってはごく当たり前の価値観も、旧態依然というか伝統を一つの看板にする日本の相撲界の価値観とは全く逆であることも事実です。彼は相撲の才能については飛びぬけて高かったと思いますが、価値観が全くかみ合わなかった。引退会見でも少し触れていましたが、モンゴルの大草原を外向きに自由に走り回る文化で育った彼は、内向きの礼儀や作法を重視する日本の伝統文化とは本質的に合わないんだと思います。無理に合わせようとすれば彼らしさのどこが失われていたはずで、もしかしたら相撲も面白くないものになっていたかもしれません。技術という面では相撲に非常に適合した人物であったが、価値観という面では相撲に全く適合しなかった。こういう両極端な適合と不適合を示したのが朝青龍だったのでしょう。でもそれでいいんだと思います。彼は色んな圧力を受けながら自分を貫き通したのだから。立派です。