名立たるものを追って輝くものを追って

私は中島みゆきの「地上の星」という曲が好きです。カラオケでは必ず歌います。
どこが好きなのか。プロジェクトXが好きだったというのもありますが、歌詞が好きというのが一番の理由です。

「名立たるものを追って、輝くものを追って、人は氷ばかりつかむ」
このワンフレーズが一番いい。暗いなと思われるかもしれませんが、事実だと思います。だいたい人間の行動というのは何かに邁進すると別の何かを忘れるようになっています。あるものを追い求めすぎると、大事なものが置き去りにされていたという例は事欠きません。身近な例で言えば営業成績を追い求めすぎた挙句、職場の雰囲気や協力関係がズタズタになっていったなんてのはよくある話です。仕事ばかりを大事にしすぎたらいつか家庭が崩壊していたなんて例もありますよね。

この歌詞の次のフレーズには
「つばめよ高い空から教えてよ、地上の星を」
と実は大事なものは手の届かないような高い空ではなく自分のすぐ身近にあるということが指摘されています。これもまた事実。多くの人は理想と比べて自分の足りないものを補おうと必死で何かを習得しようとします。もちろん、ある程度はそういうことも大事なのですが、それらは結局のところはツールでしかなく、習得したからとてそれ以上のものにはなりません。本当にその人らしさというかその良さを引き立てるのは、自らがもともと持っていたものです。意外と自らが内に秘めているタレントというのは大きな力を発揮します。私なんかはロマンチストなので、よく感性が高い(裏返せばやや神経質)とか言われることが多かったですが、そういうものが実は一番大事なんじゃないかと最近は考えています。

最近、周囲ではブランド病院に見学に行く人がちょこちょこいますが、結構な確率でうつになっている研修医が多いと聞きます。だいたい、そういう病院って「オレがオレが」という雰囲気があって、誰もが知識とかスキルとかの習得に必死になっているんですよね。地上の星に全く気付かずに。でも患者の立場で考えると、そういうのも人並みにはやって欲しいけど本当に大事なのはそういうものではなかったりするんですよね。うつになって研修できなければ元も子もない。まさに「名立たるものを追って・・・」ということなんだろうと思います。

別に教授になれなくても部長になれなくてもいいんです。名だたるものは手に入れればラッキーですが、手にはいらなくったってもっと大事なものがあります。あなたの身近なところやあなたの内側に。多くの人はそれに気付いていないだけなのです。(とある尊敬している先生へ)

ちなみにとあるアメリカのメディカルスクールでは面接で必ず聞くことがあるそうです。
「あなたは自分の力だけでここまでやってこれたと思いますか?」
向上心あって高い能力を求めるだけなら「はい」と答える学生を取りたいものですが、実際は「はい」と答えた学生は落とされるそうです。何をするにしても人間お互いに誰かに支えられているのが現実だからです(たとえば学生なら両親の援助とか)。「オレがオレが・・・」という考え方、かつての自分はそうだったのですが、今はすごく嫌いです。